中学校の時、慶良間諸島の一つの安室島という無人島に、4日ほど泊まったことがある。
何かの団体の一員として(なんの集団だったか忘れた)遊びに行ったんだけど、そこまでは近くの島からボートで渡って上陸した。島の周囲はサンゴのリーフで囲まれ、場所によっては砂浜もあった。干潮時にリーフに遊びに行くと、潮が引いて露出したリーフの水たまりに、1メートルもあるウツボや、40センチほどもあるブダイ、タコなどが取り残されていて、それをモリで仕留めて食べた。
島には他にヒメハブという毒蛇が住んでいて、ヤギもいると聞いた。僕はなぜか、野生のヤギをどうしても見たくなった。
ところが、島を一周しても、キャンプ地近くの森を散策しても、結局ヤギは見つからなかった。島に来て3日目になり、野生のヤギがこの小さい島にいる事自体が次第に怪しく感じられるようになった。
島にはちょうど真ん中に小高い丘がある。3日めの午後、その頂上に登ろうということになった。高さは100メートルもいかなかった気がする。でも、形的にも存在感的にも、この島の中では十分「山」だった。もちろん頂上までの道はない。僕らは、お生い茂るアダンの枝をのこぎりで切りながら、頂上を目指した。アダンの枝はグニャグニャと絡み合っていて、それを切るのになかなか時間がかかる。葉にもノコギリのようなギザギザがついていて、急ぐと危険だ。
上り始めて3時間ほどで、ようやくアダンの群生を抜け、大きな岩をよじ登り、頂上に到達した。山頂からは、東シナ海に沈む夕日と、島を取り囲む慶良間の島々がポツポツと見えた。東の空には巨大な入道雲がそびえており、夕日に照らされて真っ赤になっていた。
そのとき、僕は足元を見て驚いた。そこには、茶色い土のようなコロコロとした糞が。
ヤギは確かに島にいた。お釈迦様の手のひらを飛んでいた気分になった。