甲野善紀の古武術講座

5月4日に親父につれられて、甲野善紀さんの古武術講座に行ってきた。
kouno
↑甲野善紀
講座を受ける前は、普段着のように道着付け続ける怪しいおっさんという印象しかなかったが、彼はマジですごかった。本物だ。
彼は、今年で60になる身長170センチに足りない小柄なオジサン。
その彼が、受講に来ていた身長2m近くのマイク・ベルナルドのようなイギリス人のハンドボール選手をひっくり返したのには心底驚いた。
立っていた選手をひっくり返したのではない。
その大男のようなイギリス人は、レスリングのように四つん這いになっていたのだ。その状態の彼を、甲野さんはそのまますっと持ち上げて、そのままひっくり返してしまったのだ。そんなアホな!
さらに、今度は別の、コレまた2m近いハンドボール選手を大の字でうつぶせにさせて、それをいとも簡単にひっくり返してしまった。やってみたら分かるけど(やらなくてもわかるけど)、そんなこと、悪戦苦闘しない限りはまずできない。60歳の俺ぐらいひょろひょろの普通のおっさんならまず無理だ。
ちなみに、絶対にトリックはあり得ない。なぜなら、このとき受講者は甲野さんとイギリス人の周りを360度取り囲んでいたから。甲野さんは技を舞台で披露するってことはなく、常に、受講者の目の前でやる。そのため、甲野さんを中心に人だかりが出来てしまい、ちょうど大道芸人と取り巻く観客のようなスタイルになる。文字通りどの角度からでも見えるので、トリックは絶対にない。
ちょっと常識では考えられない。ていうか、あり得ない。そういう意味で、幽霊を見ている気分になっって、全身に鳥肌が立った。
甲野さんはこれらの技を説明する時に、『気』という言葉を使わなかった。著書を読んだことが無いのでよくわからないが、この人の技はどうも自分の身体の動きの緻密な観察を積み重ね、それらを応用することによって実現出来ているようだ。
その観察の例として、こんな事を上げていた。
まず、脇をしめながら左腕を90度に曲げ、チカラを抜く。
左手の親指を右手で前方に引っ張ると、左腕は簡単に前に出る。人差し指を引っ張っても、左腕は前に出る。
ところが、中指の先端を引っ張ると、左腕は前に出るものの、親指や人差し指に比べて重く感じる。しかし、中指の付け根を持って親指を引っ張ると、今度は簡単に前に出る。。。
これらの差異はとっても微妙なんだけど、実際やってみると、確かにそうなのだ。
他にも『足の向きを変えると手の楽な位置が変わる』『歩く時は実は右足と右手、左手と左手をセットにした方が疲れにくいが、階段をのぼったり、足を高く上げる時は、左足と右手、右足と左手の組み合わせがいい』など、普段は絶対気付かないような身体の動きを紹介してくれた。
例のイギリス人をひっくり返した時は、『足を垂直に浮かして体重をなくし、引っ張り上げる』というわけのわからないことをいっていたが、コレもこれらの観察の結果だという。たぶん一輪車に乗れない人に、どうやったら一輪車に乗れるのか口で説明してもわからないのと同じだろう。
講座を終えて、人の動き、行動にも、不思議なことがいっぱいあるんだと、泡盛を飲みながら親父と熱く語り合ってしまった。歩く、坐る、立つ。普段無自覚にやっている行動も、視点を変えるとこうも深く、面白いことなんだと実感したことが何よりも衝撃だった。
霊感とか、そんな類いなことと無縁の僕からしてみたら、この世の不思議と出会えるのだとしたら、意外とそれは人体や脳みそのかもしれないと思った。