ゆけ!三線三人衆 その1

今日研究室から出てくると、上江洲久美子が俺を見つけて手を振ってきた。少し前なら普通に友人として笑顔で手を振りかえして終了だけど、今回は違った。久美子が戦友に見えた。
今回から数回に分けて、大祭中の、俺と上江洲久美子、そして上原敬生(たかお)の三人の三線との格闘の日々を連載していきたいと思います。
10月22日金曜日の夜九時まで、シンコー前で、三線に関して俺はずっと憂鬱だった。
三線とは沖縄の三味線のこと。沖縄の踊り『エイサー』を踊るとき、ジュウテイと呼ばれる人が、三線を弾きながら歌を歌う。俺はガジュマルクラブと言うエイサーを踊る会(5/13の『ガジュマルクラブの危機』参照)に参加していて、そのジュウテイの役割を与えられていたのである。
俺はこの役割についてはとても満足していた。俺にはエイサーの才能なんてない。もう、ホントにへたくそで、・・・・っていうか、踊りとか云々言う前に、基本的な動きからして俺は他の人とは少し違っているようだ。
踊って恥をさらすよりは三線を弾いて歌う方がよっぽどましだ。
しかし、おれにとって問題だったのは、その三線の弾き手が俺しかいないということだ。
もし二人以上であれば、多少間違ったり、一人が詰まったりしたとしても、もう一人が引き続けているので大丈夫だ。それに多少のミスはうまくごまかされて、素人ならまず気付かない。
しかし、一人になると話はだいぶ変わってくる。
間違うリスクが高すぎる。まずギターの弾き語りとは違って、三線を弾いて歌う時は、左手の指は常に動かしっぱなしである。さらに、三線が奏でる音程と歌声の音程は全然違う。つまり歌いながら弾くと、間違うリスクが高くなる。
そして、間違いはダイレクトに聞き手に伝わってしまう。ごまかしようがない。
今回弾く曲目は五つあった。一曲目は『仲順流り(チュンジュンナガリ)』、二曲目『スーリ東り(アガリ)』、三曲目『久高マンジュウ主』、四曲目『テンヨー節』、そして五曲目が『唐船(トウシン)ドーイ』。
まず三曲目と四曲目は出来そうな予感はあった。これはテンポが遅いし歌も三線と音程がほぼ一緒だ。しかし、一曲目は歌が難しい。何回聞いても『これ歌かよ!?』ってなってしまう。覚えられない。もちろん弾きながら歌えない。
唐船ドーイに至っては怪物であった。マッハで指を動かしているくせに、歌っている音程は全然違うのである。まさに大ボス。
さらにジュウテイと言うプレッシャーが、そのリスクを限りなく巨大なものにしてしまう。踊り手はジュウテイの演奏に合わせて踊るのである。つまり、俺がミスったら、30人近くの踊り手が全員失敗してしまうのだ!
俺の今の状況は、1.3.4曲目が弾けて、2曲目と王様は弾けてない。もちろん歌って弾ける曲なんて一曲もない。大祭まで、もう二週間は切った。
他に三線持ってるやつ、出来るやつに一緒にやらないかと頼んでみたが断られてしまった。
信じられない・・なんていうこの状況・・・。圧倒的・・・。
そんな絶望的な状況のなか、直後に二人の救世主が現れた。この時は一人目、上原タカオであった。彼とはそれまで全く面識がなかったが、偶然シンコー前を通りかかったとき、俺の三線の音色をとエイサーの太鼓の音を聞いてやってきたのである。
タカオ「いや、三線の音が聞こえたんでもしかしたらと思って。自分三線弾けますよ」
これはきっと何かの縁だ!こいつを逃すわけにいくものか!
俺「じゃあ明後日から来い!!猛練習な!」
二人目の救いの女神、上江洲久美子が現れたのは、その後に開かれた俺の誕生日飲みの時だった。彼女は飲み会の席で俺のところにやってきた。
久美子「三線やってるの?!!」
俺「やってるよ。めちゃくちゃヤバい」
久美子「あたしもやりた?い」
まじで!!
俺「じゃあ明後日から練習だ!!猛練習な!!」
こうして、タカオは偶然通りかかって初めて俺に出合ったばっかりに、そして、久美子はたまたま俺の誕生日飲みに出席したばっかりに、超濃厚な二週間をもがき苦しむはめになったのであった・・・・・
つづく