節分パーティー中編

中編です。


モモヨット「豆を箸で持って走ると思ってた!!」
モモヨットは豆を箸と箸でバトンタッチしていくそのまんま豆リレーを想像していたのだ。
・・・・なっ!!それは無理じゃないの!?
だって、第一走者はまず間違いなく豆を横に挟むはず。それという事は、つぎその豆を受け取る人は、箸で、豆を縦に挟まなきゃならない。


↑イメージ
絶対無理。
それはいくら何でも無理だと思われたので、その案はソッコーで却下になり、普通に豆を箸で皿から皿へ移していくという競技内容になった。
しかし、ただ移すだけではなんか物足りない・・・
そこで、豆を移すときに鬼のお面をつける事になった。それはとても安っぽい、紙で出来た赤鬼のお面。目のところに穴があいており、そこから見ながら豆をつかむ。
どれだけ顔がお面とフィットするかってことも、勝負の鍵となりそうだ。
俺は、はっきり言って、この競技には自信があった。
ふふふ、負ける気がしないぜ・・・・
なぜなら・・・・俺は家で毎日ポップコーンを食っているのだから!!
去年の暮れ、俺の中で激震が起きた。
なんと、サンクスやセブンイレブンといった大手コンビニエンスストアーに、オーブリーと呼ばれる、電子レンジで膨らますタイプのポップコーンが置かれるようになったのだ。
こ、これはっ・・・・!!
幻のポップコーンではないか・・・・!!!!
そう、これは俺にとって幻のポップコーンであった。この種類は、地元にいた時、米軍基地内でしか手に入らなかったのだ。
だから、これが食べられる機会も結構限られていた。親父が週に一回米軍の人に英語を習いにいってるんだけど、その時ビンゴゲームでポップコーンを当てた時、これを食する事が出来た。
つまり、このポップコーンを食べられるか否か、それは、親父の運にかかっていたのである!!
そんなレアなポップコーンがコンビニで手に入る時代が到達したんだぜ!
これからはもう親父の運に頼らなくてもいいのだ。それからというもの、俺は完璧にポップコーン漬け。
毎日研究室から帰る途中、必ずコンビニに立ち寄ってそのポップコーンを購入。家に帰ったらすぐに電子レンジで膨らましてむさぼり食う。
しかし、このキング・オブ・キングスにも、一つ問題点があった。
それはこのポップコーン、焼きたてのため、表面にチーズ(バターのように溶けている)が付着していて、素手で食べると汚れてしまうのだ(でもこれがたまらなくうまい)。
そこで登場するのが、古来の人が生み出した文明の利器、箸。
ポップコーンを食べる時はいつも箸を使う。
まさにアメリカ文化と和の融合。
僥倖。
しかも、俺はポップコーンを食べる時はじけ残った豆をも残さない。小粒一つ見逃さない。
それも全部箸でだ!!
あんな小粒を毎日箸で食ってるんだぜ!?
ポップコーンの使い手として、こんなところで負けてられねーぜ!!
俺の番がきた。
箸でおらおらだぜー!!!
ところが、この豆、意外とつかめない。
・・・いや、全然つかめないですやん!!
あれ!?あれあれ!??こんなはずでは!?
結果は惨敗。大敗。
そうだった。これはポップコーンではなく、大豆なんですよね。大豆とポップコーンは違うよね。そうだよね。
だいたい、鬼のお面をかぶる時、ちょうど鼻の当たる場所に、既に先にやった人の鼻の油がこびりついてるのを見てなんかおかしいなと思ったんだよ。
結果はモモヨットが一位だった。
まるで草原でライオンがインパラを狙うような集中力だった。残りの五人をあっさり撃破。
モモヨット「じゃあ、次は恵方巻です。」
恵方巻は普通ののり巻きで、納豆、カッパ、ツナその他色々あった。これらを恵方巻として食べるのは始めてである。
さっきの豆リレーでタイムが良かった順に恵方巻の種類を選んだ。俺は最後から二番目。
恵方巻は 多めに用意されていたので、一人二本食べる事になった。
次に恵方巻をどの向きに食べようかという話になった。今年の恵方は南南東。
「南南東って大体あそこらへんだよね」
そこは、俺なんかがいるすぐ近くの壁のある方角である。
こんなにアバウトでいいんだと思いながらその方角に向かって恵方巻を口にくわえた。
恵方巻を食べるときには、しゃべってはいけないらしい。
それは福が逃げるからなのだそうだ。恵方とは福が来る方角。今年の恵方は南南東なので、そこから福が来る。それを恵方巻として食べるのである。しかし、その時しゃべってしまうと、せっかく取り入れた福を言葉と共に吐き出してしまう。
だからしゃべってはいけないのだそうだ。
俺の恵方巻はツナ入り。なかなかうまい。
ムシャムシャ・・・・
静かな研究室内で、六人が目の前の壁を向きながら、恵方巻を無言でほおばっている。
むしゃむしゃ・・・・
こんなに人数がいるにもかかわらず、聞こえてくるのはむさぼる音だけ。二本分食べ終わるまで、無言がつづく・・・・。
むしゃむしゃ・・・・
ムシャムシャ・・・・
異様。
(つづく)