【ネタ】岡山バンジージャンプ

バンジージャンプする人を観ている

 

僕は絶叫マシーンがものすごく苦手。高いところから落下するってのは昔の人達からしたら死に直結する行為なわけで、僕は昔の人ではないけれど、絶叫マシーンからはそういう死のにおいみたいなのがプンプン感じられて無理。ましてや数年前のジェットコースターの事件をテレビで見て以来もうだめだ。

それでも高校の時、バンジージャンプに挑戦したことがあった。挑戦したというより、やるような状況にさせられたわけだけど

1.

僕は沖縄の高校に通っていたけれど、友人に一人、実家が岡山にある奴がいて、2年の夏休みに友人ら5名で飛行機に乗って岡山に遊びに行った。その際、岡山にあるテーマパークに遊びに行こうぜっていう話が出た。

そのテーマパークは瀬戸内海を見下ろす高台にあるテーマパークだった。夏休みではあったけれど、後楽苑やディズニーランドのように都会の近くにあるわけではないので、人もそれほど多くなく、とても過ごしやすかった。でも、僕は死ぬほど憂鬱だった。絶叫マシーンが苦手だったからだ。

僕は来てそうそうダダをコネまくって、ジェットコースターや椅子に座って垂直落下するターボドロップなど、「絶叫」の付くマシーンに乗るのをことごとくボイコットした。小さい時に高いところから落ちてトラウマなんだわ、だとか、今日は腹の調子が悪くて、落下の時のあのフワッとする感じを食らうとすぐ下痢になる、などと言って度重なる誘いをくぐり抜け、使い捨てカメラの撮影係に徹した。

でも友人たちは、僕のその姿勢に不満気だった。特に山内真と裕一郎は「お前は男じゃない」だの「意気地なし」だの結構文句を行ってきたので、分かった、俺も男じゃけん、1つだけ乗るわ、と言った。それで、友人たちが指定してきたのが、バンジージャンプだった。

 

2.

そのバンジージャンプはテーマパークの中でも一番高いところにあった。

バンジージャンプ自体は高さ25メートル。下に暑さ3〜5メートルほどのクッションがあるので、実際に落ちる距離は20メートルほどだと思う。

でも、バンジージャンプ台の上に立つと、右手の遥か下に瀬戸内海が広がり、島々が点在し、瀬戸大橋が海の向こう側の巨大な島に伸びているのを見渡せた。死ねって言いたくなるぐらいの高さだ。僕はこの台に立つまで階段を登ってきたんだけど、それが本当に死刑台に感じたし、途中「貧血だから無理」とか適当な嘘をつきまくってたけれど、本当に貧血になって倒れるかと思った。

他の連中もさすがにビビったらしく、山内真が、お前からとべ、と行ってきた。でも、僕には100%無理だった。だから心を込めて懇願して、順番を後回しにしてもらった。

みんなビビってたが、一人、新撰組にドハマリしていた岡山出身の奴が、「誠(まこと)ォォー!!」と叫びながら飛び降りた。それで、みんな勇気をもらったのか、次々に飛び降りていった。

ジャンプ台には、あっという間に僕だけが残ってしまった。

 

3.

台には僕の他にインストラクターが一人いて、僕にロープをつける装具を着せた。そして、「前から倒れるように飛べば安全です」とアドバイスしてくれた。

前から倒れるだって!?こんな空中に!?

下を見れば、人々が十分豆粒のように見えた。25メートルって馬鹿にしてたけれど、信じられないほどの高さだ。

足がすくんで飛べるような状況じゃない。前から倒れるように飛ぶなんて、とんでもない話だ。僕は恐怖のあまり、台の縁に立ったまま、ピクリとも動けなくなってしまった。インストラクターが大丈夫、君はイケる、といい、カウントダウンしますねという。

「3,2,1,バンジー!!」

もちろん体は動かない。いくらカウントしたって、飛べないものは飛べないのだ。

 

その時、後ろにもう一人上がってきた。振り向くと、僕よりちょっと歳が下のような女の子だった。この子もバンジージャンプを飛びにきたのだ。早く飛ばないとこの子を待たせてしまう。

ところが、焦って飛ぼうとするんだけど、やっぱり飛べない。足がすくむし、手が柵を掴んで石のように固まって、動こうとしないのだ。

結局そうやって15分ほど女の子を待たせてしまった。すると、女の子が言った。

 

「あの、、もしよろしかったら先に飛んでもいいですか?」

 

もちろんいいよ!!!

どうぞどうぞ!!!

もはやプライドもクソも何もない。

 

インストラクターにロープを外してもらい、女の子につけてもらった。

その間僕はジャンプ台の後ろでぐったりしていた。

 

女の子はロープをつけて、ジャンプ台の縁に歩き、下を覗いた。

 

「きゃーーー!なにこれーーー!!こわいーーー!!」

 

彼女にとっても、コレは予想を超えた高さだったようだ。俺だってこんなにビビってるから、女の子がビビらないはずがない。

 

「おちついて。じゃあカウントダウンしますね」

「ええ!ほんとうに!?こんな高いところからとぶのーー!?」

「じゃあ、いきますよーー。3,2..」

「きゃーーーー!」

 

女の子は、カウントダウンが終わらないうちに飛び出した。

僕は驚いて、這いつくばってジャンプ台の縁から下を見下ろした。遥か下で「すごーい、怖かった〜」と言いながら、笑顔で仲間と合流する女の子が見えた。

またジャンプ台には僕だけが取り残された。

 

 

4.

インストラクターに促され、僕はまた命綱を取り付けた。そして、ジャンプ台の縁に立つ。

すると、ジャンプ台の下で拍手が起きた。

一瞬何が起きたか分からなかったが、下を見てさっきと状況が変わっていることに気がついて驚いた。

さっきまではいなかった大勢の知らない人たちが集まっていて、僕を見上げて拍手しているのだ。

後で聞いて知ったんだけど、バンジージャンプ台になかなか飛べない人がいるらしい、という話が、お客さんの間でいつの間にか広がっていたらしい。でも当然はそんなこと知らない。何が起きているのか分からなかった。

 

僕が戸惑っていると、誰かが「とーべ!とーべ!」と手拍子をしだした。

すると、それが多くの人達に伝わり、次第にとーべ!とーべ!と大きなコールになっていった。

よく見ると、友人らもその中にいて、コールが起きていることに大笑いしている。

でも、僕には目がくらくらするほどのプレッシャーが襲いかかってきた。ここで飛べないと、友人や女の子だけじゃなく、この知らない人たちみんなから笑いものだ。ここは絶対飛ばなきゃ。絶対飛ばなきゃ!

コールは鳴り止まなかった。僕は柵にしがみつきながらも頑張って空中にせり出して前傾姿勢になった。手を離せば、前から倒れるように落ちていく。

後は、手を離すだけ。目を閉じて、心を落ち着かせ、手の力を抜くだけだ。

手の力を抜くだけ。。

 

とーべ

とーべ

とーべ

とーべ

 

 

…………………………………………….

 

 

 

でも、結局、僕は飛べなかった。

その後、インストラクターが何度カウントダウンしても、下で何度コールが起きても、足がすくんでダメだった。

下からは「なんだ、とばね~のかよ」という声が聞こえてきた。さっきまで集まっていた集団も、散り散りに去っていった。後には、しらけたムードだけが残った。

僕は「ごめんなさい、やっぱり無理です」とインストラクターに謝り、階段を降りていった。

 

それ以来、ジェットコースターは乗ったけど、落下系のものは乗ったことないです。

たぶん二度と乗らないはず。