【ネタ】バスでロシアンルーレット(後編)

バスの中でビビってるイラスト

 

この前の話の続きです。

翌日僕は二人に会ったんだけど、僕はあんなゲームに参加した自業自得だったくせに怒りが収まらず、二人に文句を言った。でも、なぜかAとBの間でもよそよそしいところがあった。それで、あの後なにが起きたのか聞いて、呆れたというか、なんとも言えない気持ちになった。

今日はAとBの話です。

 

3.

僕はてっきり、あの後二人で釣りに行ったのか、あるいは僕が帰ったことに気がついて、どこかに遊びに行ったのだろうと思っていたんだけど、驚いたことに二人はゲームを続けたのだそうだ。

もちろん続けると言い出したのはAだった。Bはてっきり、残り二人になった時点でゲームを止めると思っていたので驚いた。

二人でやったって絶対おもしろくないに決まっているからだ。ルーレットに勝つにしても負けるにしても、どちらの場合も一人になる。一人でバスを降りるか、一人でバスに乗るか。それしかないからだ。

でも、Aにはちょっと危なっかしいところがあるのをBは知っていた。Aは何かについて言い始めると、自分の中で勝手に盛り上がってしまい、周りが着いていけないと感じるところまで突っ走ってしまう傾向があった。

すでに、Bはもう着いて行けないと感じていたので、早くこのゲームを終わらそうと思った。まだバスが遠くまで行かないうちに、さっさと負けて降りてしまおう。それで、なんの躊躇もせず降車ボタンを押した。

ところが、バスが停留所に止まると、乗客が一人降りていった。

うおおおお!!

思わぬ展開にBは思わず大声を上げてしまった。バスから降りられなかった。いや、この際ルールを無視して、勝手に降りてしまえばよかったのかもしれない。

でも、いや、なんだ?

なんだ?この湧き上がる快感は!!

Bはニヤニヤを抑えられないままAを見た。Aはまさか降りる人がいるとは思わなかったから、驚いて動揺していた。それで、Bの喜びが爆発してしまった。Bは普段Aにいじられていたから、さらに快感に感じてしまった。そうか、俺が求めていたのはコレだったんかあ!

B「早く押せよ、お前の番だよ」

ところが。Aはボタンを押そうとして、その恐怖感に圧倒されてしまった。

実はAは、自分がボタンを押す展開になるとは全然想像していなかった。いつもBをいじって終わるので、Bが自分より上の立場になる展開が想像できなかったのだ。だから、このボタンを押すときに感じる恐怖感に驚いてしまった。絶対に負けたくない、降りたくないっていうプライドのようなものが、彼を縛り付けた。

でも、Bの手前、押すのを躊躇するのはかなりの屈辱だった。Bのニヤニヤ顔を見ていると、しだいにイライラのバロメータがどんどん上昇していくのが感じられた。それで、意を決して、ターンと叩きつけるようにボタンを押した。

すると、また乗客が一人降りた。

う、うはーーーー!!!

 

今度はBが青ざめた。

ところが、またBが押すと、乗客が一組降りた。

なにーーーー!!!

 

Aが押した。

うわあああああ!!

 

・・・・・・・・・・・・

 

ふたりが目的地の国場をとっくに通り過ぎていることに気がついたのは、それからだいぶ経ってからのことだった。

 

4.

Bがそれを知って愕然としたのは、負けてバスを降り、コンビニの店員に現在地を聞いた時だった。

考えてみれば、途中川があった。今思えばあれの河口が目的地だったのだ。でも、Aとの勝負に夢中になって全然気が付かなかった。

それで、Bはもう歩いて釣り場まで行くのを断念した。

バスから降りた時、Aは釣り場で待っていると言っていた。でも、彼はもうとっくに通り越して、全然知らないところに一人で行ってしまった。ケータイもポケベルも無い時代なので連絡のとりようもない。

それでBは考えた。Aのことは、もう忘れてしまおう。

反対方向のバスに乗り、家に帰ってゲームして美味しいご飯を食べて寝た。

 

じゃあ、Aはどうなったのか?

結論をいうと、糸満(沖縄本島の最南端)まで行ってしまい、そこで親を呼んだ。

彼はあろうことかバスの中でくつろいでいた。ところがそのうち、風景から建物が少なくなり、代わりにさとうきび畑が広がりだして、心配になってきた。

それで、電光表示の料金表を見て驚いた。当時は那覇市の外を走る市外線であっても、那覇市内は一律200円だった。ところが、今見ると、値段が700円になっているのだ。つまり、もう那覇市を離れているということだ。国場は那覇市内のはずだった。ここはどこだ!

慌てて降りようとしたが、ポケットには500円しか入っていなかった。なんで500円しか持っていないのに釣りに行こうと思ったのかわからないが、何度見ても500円は500円だった。

だからAはBに期待した。Bが助けに来てくれる気がする。あいつは俺と一緒に釣りに向かったんだ。国場で会おうと言った。俺のピンチを察して助けに来てくれるはずだ!

なぜそう考えるのか全然わからないけれど、もちろんそんなことは起きなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

翌日AはBが家でゲームしてたと聞いて激怒した。でも、それは逆恨みとしかいいようのないものだった。Aになぜ俺を助けにこない!と怒鳴られて、Bは心底驚いた。

それでAとBはギクシャクしていた。

 

僕は正直Aの暴走っぷりに着いて行けないと感じていた。

Bもそう思っていたようだ。

そしてAは、なんて薄情な奴らだ、と思ったようだ。

 

それでこの件以降、あまり二人と絡んだことはない。