一泊二日館山の旅と羽野昌二観察日記

郵貯のATMから一万4千円を引き出すと、残高が-2000円になって顎が外れそうになった。
午前三時に集合場所を告げられた俺は、6時間後に千葉駅を館山に向けて出発した。3月4日の演奏会(3/6『洞窟で、春を祝う』参照)で一緒になったメンバーと一泊二日の館山旅行である。その中にはドラマーの羽野昌二さんもいた。


羽野さんとは実は今回の旅行で一緒に釣りをする予定だったのだんだけど、電車で行くという不便さから、釣り道具を持っていくのを断念。結局釣りは取りやめになった。
しかし、いざ宿屋についてみると、その目の前には紺碧の太平洋が広がり、魚影の濃そうな磯が海岸沿いに伸びていて、明らかに釣り具を持って来なかったという選択は間違いに思われた。
羽野「こりゃ、明らかに失敗だな」
悔しがる羽野さん。そこで、散歩がてらにこの磯はどの辺が釣れそうか、見て歩くことにした。
磯は風が非常に強かった。海上には白波が立ち、波が岩にくだけて白い水しぶきを上げている。一緒に磯を見つめながら歩道を歩いていると、羽野さんは歩道を外れて、一人磯に向けて歩き出した。
羽野「おーい!!こっち来い!」
羽野さんが呼ぶので、俺は走って羽野さんの所に向かった。すると、俺が羽野さんに追いついたときに、突然羽野さんが走り出した。
え?なになに?
俺も慌てて付いていくと、この五十代のおっちゃんは、次々と険しい岩を飛び越えて、崖っぷちを駆け抜けていく。俺も必死になった。超怖えー!!アブナい!
俺の息が切れかける頃、羽野さんは潮が引いて水たまりになっている岩場を覗き込んでいた。
羽野「お、アレ食えるぞ」
見ると、タニシがいる。それを指差して、一匹一匹つまみ上げる羽野さんは少年そのものだった。
集めたタニシは、砂浜で火をおこし、海水で煮て食べた。砂がじゃりじゃりしていたが、なかなかおいしかった。
メンバーは皆終始まったりしていた。このメンバーはそのほとんどがM2か四年の卒業生。最後の学生生活の思い出として、思い思いに過ごしいているのかもしれない。俺はつい最近に参加したばかりだから、そういう想いを共有できないのがとても残念だった。
夜。
今後のイベントの話し合いが行われた。9月にも演奏会をまたイベントをするんだって。多くの卒業生が卒業後もなんとか時間を作ってこのイベントに参加するみたい。もちろん俺も参加します。
その時の羽野さんは結構厳しかった。酒を飲みながらで、口調は穏やかだったけど、でも言ってることはプロの意識がにじみ出ていた。プロドラマー羽野昌二。
その後、俺は羽野さんから個人的に『瞑想』の仕方を教わるが、とてもきつくて、しかも『気』がどうのこうのとわけがわからない上に叱られまくったので、そのまま寝ることにした。瞑想家羽野は苦手だと思った。
翌日、俺達はまた磯で取ったものでバーベキューをしようという話になった。
しばらく袋を持って磯を探っていると・・・カキ!!カキじゃないっすかこれ!!
そのカキは磯ガキという種類らしくあまり漁では採らないそう。でも美味なんだって。
早速朝探してきた鉄板で、タニシやらカキやらを焼き、食べた。まじアウトドア。


↑鉄板の上にはカキやタニシでてんこもり・・・
こんなふうに採ってきた貝をそのまま食べたことはないです。
その中で、『竜の爪』と呼ばれる、羽野さんが採ってきた貝があった。グロテスクな貝だったが、中身をつまみ出して食べると、塩味が効いてなかなか美味だった。


↑『竜の爪』正式名称わかりません
羽野「どうだ?珍味だろう」
帰り。鞄を持ってバス停に向かってたら、羽野さんがまた叫んだ。
羽野「山里!また走るぞ!!」
俺はまた羽野さんに付いて磯に向かって走っていった。風は昨日より遥かに強く、波は死ぬほど高い。鳶が風に逆らって飛ぶのに必死だった。
岩の上に立った。眼前には太平洋が広がっていた。
俺は、風に逆らって、海に向かって叫んだ。
羽野「ばか、お前、全然声が小さいぞ。あーーーー!!!!!!!」
耳がつんざくほどの声のでかさ。
羽野さんはやっぱり子供だと思った。カッコいい、少年の心を持ったオヤジなんだ。
カッコいいオヤジ。これ以上になりたいものってあるんだろうか。