五年五組の秘密 後編

後編です。


その前に、ここでちょっとガキ大将について触れておきたいと思います。
もう十年以上も前の話だから、今更角は立たないでしょう。
彼はこのクラスで最も目立つ存在だった。喧嘩は強かった方だと思う(ていうか、俺弱すぎ)。そして誰よりも元気はつらつで、明るいオーラを振りまいているキャラだった。
でも、少々大げさなキャラでもあった(人の事言えないけど)。悪く言えばパフォーマー。それがイラついて、しょっちゅう喧嘩していた気がする。負けるのはいつも俺。まあ、いい思い出なんだけどね。
だから、基本的にガキ大将達とつるんで遊ぶってことはほとんどなかった。
さあ、ここから遂に運命の日を迎えるわけなんだけど、ちょうどその前日ぐらいに、俺は夜一人でもんもんと考えていた。
テニスボール。どうしてもそれが引っかかって仕方が無い。
え?テニスボール?本当にテニスボールで窓って割れんの?
シャラポワといった、テニスの超一流選手が放つ時速150キロ豪速球なら割れるかもしれない。でも、割れたのは中学生の遠投なんだ。テニスボールで割れるとは思えない。
じゃあ、何?ガキ大将の間違い?実際に投げているくせに、こんなの間違えるもんなのか?
・・・・そもそもガキ大将怪しいよな。
普通ガラスが割れたら、真っ先に疑われるのは教室で野球をやってたガキ大将達だもんな。ガキ大将達が嘘をでっち上げて、中学生達のせいにするって十分考えられるよな。
そして、たまたま見つけたテニスボールを、その凶器(?)に仕立て上げるんだ。信憑性上がるもんな。
でも、これが成立するのは、教室にいたのが彼奴らだけ場合の話。
実際には女の子のグループも教室にいたんだ。彼女ら優等生だもんなあ。彼女らまで中学生の存在を認めているんだから、中学生は確かにいたんだよなあ・・・間違いないよなあ・・
それに彼奴ら野球する時はゴムボール使うしなあ。やっぱ中学生なのかなあ。ってことはやっぱテニスボールで割れたのかあ・・・
思考回路は堂々巡りして、諦めた俺は結局そのまま寝る。
実はこの考え、恐ろしいほどニアミスだったのだ!!
翌日、女子の一団が職員室に向かっていた。あの日、教室にいた人たちだ。彼女らはひどく怯え、震え上がっていた。
職員の許可を得ると、彼女らはまっすぐ嘉数先生の席に向かい、横一列に並んだ。
先生「・・・どうしたのですか?言ってみなさい。」
女子「・・・先生・・・ごめんなさい。あたし達隠していました」
教室は嵐と化した。
鬼婆教師が、文字通り鬼のような形相になって、ガキ大将達をビンタした。同様に隠蔽工作に参加した女子全員にも強烈なビンタを浴びせた。
なんと、その場に居た全員で、野球をしていた連中がガラスを割った事を隠していたのだ。女子も含めて皆で!!
事の真相はこうだった。
あの休み時間、女子はみんなおしゃべりをしていて、男子は野球をしていた。男子はもちろんゴムボールを使っていた。
ところが、バットがいけなかった。
彼らはその時バットに笛を使っていた。笛を、それをしまう袋ごとバットとして使っていたのである。
すると、誰かの番のときに、バットを振ると、その袋の中身、つまり笛が袋から抜けてしまって、窓に衝突、ガラスを割ってしまう。
驚いた教室中の児童。早く先生を呼ばなきゃと教室を抜け出そうとする。
ところが、そこにガキ大将が立ちはだかった。
ガキ大将「言ったら全員ぶっ殺す」
ガキ大将は次々にこのクラスにいた生徒達に恐怖を植え付けていった。「ちくったら殺す」、その言葉で人を十分操れるほどの力を、彼は持っていたのだ。
よほどそれがすごい迫力だったに違いない。女子達は、それに従うしか無かった。
緊急の話し合いになった。どのように口車を合わせるかという事である。すぐさま「中学生がボールを投げてガラスが割れた」ということになった(この間にMは一人勝手にガラスを握り、怪我。)。
ところが、事件は思った以上に、大きなものに発展してしまった。中学校を巻き込み、しかも毎日写真を持ってきては、誰がやったのか訪ねられる。
きっとそれは、もの凄い恐怖だったに違いない。
それで耐えきれなくなった女子達が、遂にこの日自首する事に踏み切った、というわけである。
教室の前で、その全貌を引き出した先生は、可愛い教え子に騙され裏切られたショックで、顔を崩して泣き出してしまった。
嘉数先生は、鬼なのだが、本当に生徒想いの先生だった。
実は数日前ぐらいから、校長と教頭は、このクラスの事を疑いだしていたそうなのである。何回も写真を見せて、その答えを聞いてきたが、誰の答えもひどく曖昧で、しかもあまりにバラバラだったからだ。
でも、嘉数先生だけは、ずっと生徒を擁護してきたのである。先生はうちの生徒を絶対的に信頼していたのだ。担任が信頼せずに、誰がクラスの生徒を信頼するって言うのだ。
だから、先生のショックは胸が張り裂けそうなものだったに違いない。
前に並ばされた生徒はみな一同に泣いていた。先生も号泣である。なんて凄まじい光景!!
するとである。
ガキ大将が横に並んでいた列からすーっと抜け出すと、教室の隅にある先生の机に歩いていった。
先生「おい!!そこに並びなさい!!」
その瞬間、ガキ大将が信じられないような行動に出た。
なんと先生の机の鉛筆立てからカッターナイフを取り出すと、自分の手首に当てたのだ!!!どんだけ大げさなんだよ!!
先生「やめなさい!!」
ガキ「うるさい!!」
女生徒「やめて!お願い!」
ガキ「うるさい!もう死ぬ!!」
クラスは大騒ぎになった。こんな事あるかよ!?しかも小学校で!!?
大勢がガキ大将を取り囲んで、皆で説得をした。多くの人が泣きながらの説得だった。
そして、遂に、興奮が冷めるごとに、ガキ大将は、泣きながらそのカッターナイフを机に置いたのだそうです。
マジで、ドラマ。怒濤。
壮絶だったんだね・・・。
・・・・・・・・
え?俺? 俺はどうしたんだ、だって?
ははは、そんなの決まってんじゃん
風邪引いて家で寝てたんだよ、バカやろう!!!!!!
前編の冒頭で言っただろ!!俺はなんだかんだで決定的な瞬間を見逃すって!!
なんていう痛恨のミス!!これって、二時間ドラマでさんざん犯人を考えておきながら、海岸での犯人の告白シーンを見逃したのとおんなじじゃねーか!!
東江「いやあ・・・マジですごかったよ。マジで」
東江が、別の友達と二人で、風邪引いてる俺んちまでわざわざやってきて、玄関先でこの事件の終焉を教えてくれたのだ。
うおおおお・・・しかし、なんてニアミスなんだ。俺の推理、かなり近い所まで行ってたじゃねーか・・・。
そうかあ、あの袋のバット。笛のバットで事件を起こしてしまったから、わざわざ使いづらいあの袋のバットに変えたんだ。なんで気付かなかったんだろう。
しかも、女子まで嘘をつくなんて反則じゃねーかよ・・・。
俺は悔しくてならなかった。波乱を見逃し、さらに、真相も惜しくも外すとは・・・。
しかし、その時、俺の中で悪魔が囁いた・・・。
悪魔「当たった事にしとけよ。どうせニアミスだったんだろ?」
そうだ、逆に考えてみれば、俺はそこまで考えがたどり着いていたのだ。テニスボールからガキ大将達が怪しいってことも考えていたし、バットの変化にまで気付いたのは、俺達以外にはいまい。
これって、ほとんど正解・・・いや、むしろ正解と言っていいだろ!
俺「いやーー、ここまで俺の考えが正しかったとは・・。」
東江「え?どういう事・・・?」
俺「うん、俺の中で、謎はすべて解けていたのだよ」
東江は信じられないほど素直なヤツである。彼は本当に驚いたようだった。
東江「ええ!?どうして?どうやって?」
俺はバットが変わった理由と、テニスボールでは窓は割れない、よって彼らは嘘をついていた、という、たったさっきわかった理論をあたかも知っていたかの様に伝えた。
東江「すげーー!!名探偵だ!!」
東江は本当に俺を尊敬したようだった。すげー単純!でも、なんか俺の鬱憤も晴れて、逆に気持ちよくてたまらなかった。←バカ。
ところが、翌日。
学校に行ったら、先生が全員を床に座らせて、先生がどれだけ俺達の事を信頼しているのか、どれだけ人を信じるってことが重要なのか、優しく語りかけてきた。
先生がこんなに優しい口調で、しかも心に響くような口調で語りかけてきた事は無かったので、俺はすっかり感動してしまった。
先生「じゃあ、みなさん、人に信頼されるってことがどれほど大切なのか、今回の事を通して心に刻んで下さい。あたしはあなた方を信頼しています」
ああ!なんていい話なんだ。この事件を通して、俺達は大切な事を学んだぜ!人を信じていきて行こう。人に信頼されるような人間になろう。
そして、皆が席に着こうとしているときだった。
東江「そういえば、すごいぜ!マサキのやつ、全部この事件の真相わかったんだって」
は?
皆「え?マジで?」
俺「うん、まあ」
すると、先生がやってきた。
先生「ちょっと待って。あなたは誰が窓を割ったのかわかってたって事?」
俺「はい、そうです。全部推理で」
先生「わかってたのに、先生には言わなかったの?」
・・・・え?・・なんかヤバくない?
俺「い、いや、そういう事じゃないです」
先生「そういう事ってどういう事?」
もはや先生は、新たな共犯者を見つけたような目になっていた。こいつにも裏切られた、という、失望の色が浮かんでいる。
俺「ご、誤解ですよ!証拠が無かったんですよ!」
マジ意味が分からんいいわけ!何言ってんだ俺!!
先生「証拠って何よ!ちょっとアンタこっち来なさい!!」
ぎゃーーー!!うそ!!ちょっとまってーー!!!!
ぎゃあああ・・・
やはり、見栄を張るのはイケナイ、と、小学生ながら心の底から思ったのでした。
終わり(長かったー)