五年五組の秘密 中編

イエーイ!!中編でーす!
でもその前に、前編で起きた事件を簡単に整理してみたいと思います。


1.昼休みに、教室で十数人が残って思い思いに遊んでいた。男子は教室の後ろ側で野球(ボールはゴム製。ガラスを割るのは不可)。女子は二グループばかりおしゃべりを楽しんでいた。
2.突然、窓ガラスが割れた。その場にいたもの全員が、中学生を目撃。
3.中学生はボールの返却を要求するも受け取らず、そのまま逃亡。そのボールはテニスボールだった。
4。犯人さがしの焦点は、松島中学校に定められた。
さて、その時クラスにいたメンバー全員(少なくとも男女合わせて10人以上)の証言で、特に五年五組のある校舎から一番近かった那覇市立松島中学校に犯人探しの焦点が移ったわけなんですが、ここで、その松島中学校がどんな学校だったのか、お話ししたいと思います。
松島中学校は小高い丘の上にある見晴らしの良い所にあって、ベランダからは、那覇市の町並みと、東シナ海を見渡す事が出来た素晴らしい学校だった。俺の母校でもあります。
他の代はよくわからないけど、俺らの代は皆かなり仲が良くて(もちろんそうじゃない人もいるけど)、大変楽しかった。小中高大含めて『中学が一番楽しかった』と答える人も少なくない。後輩には、二個下にハイ&マイティーカラーのメンバーも二人います。
でもね・・二個上から三個上、つまり俺が小5の時の松中は、本当に、本当に怖かった!!
まさに恐怖の対象。小学生へのカツアゲは当たり前。聞いた話によると、那覇市の中では、松島中学校が初めて教師リンチ事件を起こしたらしい。学校の隣の墓場で、数人が鉄パイプで殴り合って、そのうち数人が入院したって話もあった。
さらには、『黒薔薇』っていう女のヤンキー集団も結成されてたんだって!!『第何代黒薔薇』みたいな感じでどんどん受け継がれていたと言うからウケる(これは一度消えたが、俺らの代で復活したという話も聞いたことがある)。
小学校の窓ガラスを割って逃亡する連中がいても、決しておかしくない学校だったのだ。
その日の放課後。俺はどうしてもテニスボールではガラスが割れないんじゃないかと一人疑問に思っていた。近くでもの凄く豪速球で投げたら割れるかもしれない。でも、遠くから投げたら、テニスボールほどの軽さなら空気抵抗ですぐスピードが殺されてしまう気がする。
ところが、ガキ大将のヤツは絶対これだって言うし、他のクラスのメンバーも、「多分これだったと思う」という曖昧な答えしか返ってこない。
そこで、自分で本当にこのボールが窓ガラスを割ったのか調べてみようと思った。ちょうどその日、偶然にも俺の半ズボンのポケットには、胸が躍るような新兵器が眠っていたのだ。
それは・・・虫メガネ!!!
やっぱ探偵っつったらこれっしょ!!その頃、俺は図書館に沢山あったシャーロック・ホームズに夢中になっていた。ほんの少しの手がかりで、鮮やかに事件を解決してしまうホームズにどれだけ憧れた事か!
チャンスはやってきた!胸が躍るとはこの事だぜーー!!
で、まず俺はテニスボールを持ってきて、徹底的に覗き込んだ。
硬式(?)テニスボールは、表面が黄色い毛のようなもので覆われている。もしかしたら、そのなかに、粉砕したガラスの欠片が絡まったりしているかもしれない。
しかし、どれだけ観察しても、アスファルトの粒とか、砂しか見当たらず、ガラスだと言い切れるものは無かった。
「なにしてるの?」
急に言われて驚いた。見ると、当時の友人の東江が興味深そうにこっちを見ていた。彼は一緒にケードロをしていた仲間でもあった。
わけを話すと、彼は大変興奮したようだった。
東江「じゃあさ、逆にもしかしたらガラスの破片の中にテニスボールの毛が混じっているかもよ!」
俺達は、教室の隅にまだ放置されていたガラスの破片の山の所に行った。後で先生が片付けるつもりだったのかもしれない。ガラスは段ボール箱っぽいのに入っていて、ガムテープでぐるぐる巻きにされていた。
で、ガムテープをほどいてみたが、あまりのガラスの分量に圧倒された。この中からテニスボールのミクロな毛を見つけるなんて、明らかに無理。
探偵は思ったより楽ではないようだ。
それから数日が経った。あの日以来、中学校では給食時間に「小学校の教室の窓ガラスを割った人は出て来い」という校内放送が流れていたが、当然名乗り出てくるものはいなかった。
小学校の校長や教頭は犯人探しに躍起になって、何度もその時教室にいた生徒を呼び出しては中学生の顔写真を見せたりしていたが、いっこうに要領を得なかった。
で、その頃には俺の探偵熱もすっかり冷めてしまっていたわけ。中学生相手だと、こちらが何を調べようと、所詮無意味な話なのだという事に気付いてしまったからだ。
そんなある日の休み時間。五組の隣にあるベランダで高オニをしようと教室を出た時、ガキ大将に呼び止められた。
大将「野球しようぜ!!人数がいなくて困ってるってば」
俺はぶっちゃけ嫌だった。ていうのは、俺はこの大将と大して仲がいいわけではなく、しかも、この野球というのが実にしょぼいものだった。
ボールはゴムで出来たプーカーボール(この名前全国区?)。塁も二つしかなく、最悪なのはバットが上履き(体育着?)の袋だってこと。袋に中身を入れて、付いている紐を遠心力でバットのように振り回して、袋をボールに当てるのである。やりずれーーー!!(説明しずれーーー!!)
俺「なんであんな打ちにくいバット使ってんのかな。上履きの袋ってどういう事?」
学校帰り、ランドセルをしょいながら、東江と一緒に歩いていた。
東江「なー。アレじゃバントしか出来んぜ。袋を直接もってさー」
俺「なんかもっと棒みたいなものを使えばいいのに。ほうきの柄とか、縦笛とか」
東江「あ、でも前は笛でやってたぜ。ケースごと持って打ってたよ」
俺「えーーー?じゃあ、笛とかよりも、上履き袋の方がいいってこと!?」
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後から思えば、実はこの会話の中にこそ、この事件の、最大のヒントが隠されていたのです。
俺は、気付けなかった。ガキだからしょうがない。
でも、このおかげで、俺は後にひどい目に遭う事になった。
翌日も、中学校で校内放送が流れた。もちろん誰も現れない。
・・・・・じわじわと、すべてが崩れ去る日が、近づいていた。
(大波乱の後編につづく・・・・!!!)