哲学的なゴリラ

昨日は所属するサークルで追い出しパーティーがありました。前日徹夜していた俺は、二次会からガンガン飲んで大暴れ。
ろれつは回らなくなり、視界は揺れ、無意味に興奮し、先輩と何話したのかもわからず、ゲロ吐きながらツヨポンに抱えられて帰宅。二人で死んだように寝る。
だからおかげで今日は朝から頭痛が激しくて、せっかく泊まっていたユキマサにツヨポンを紹介する事が出来なかった。
そう、昨日、実は俺がパーティーで泥酔している間に、中学からの大親友の川満ユキマサが俺の家に宿泊していたのだ。


ユキマサは、俺が中学で出合った最も強烈な人物の一人。
とにかく彼が残してきた伝説はもの凄く、去年のズンの自宅全焼事件が起きるまでは、中学3年間でやらかした出来事は、ユニーク度、スケール度共にダントツのナンバーワン(いずれ傑作選で出てきます)。
そんな彼がせっかく千葉まで俺を訪ねにきてくれたのだから、これは是が非でも面白いところに案内したいところだ。
そこで、ツヨポンが帰って俺の頭痛が治った後、千葉の動物公園に行こうという話になった。去年の年末に行って失敗したリベンジもかねての提案である(1/2『2005の終わり』参照)。
初めて来た千葉動物公園は非常に閑散としていた。曇り空という事もあり、雰囲気がどんよりとし、風で枯れ葉が数枚舞って、かさかさと音を立てている。葉っぱが落ちきって、骨と化した木々も痛々しい。
ひゅーーーーー・・・・・かさかさかさ・・・
殺伐。
時々、鳥の鳴き声の『ぎゃー』という声が鳴り響き、子供の泣き声も混じって、いっそう暗い雰囲気になった。
極めつけは、ダチョウのエリアにある木。冬のために葉っぱが一枚も残さず散っていて、その木にどこから集まったのか知らないが、大量のカラスが止まっているのである。
まるで鬼太郎に出てくる墓場・・・。
しかし、動物公園のクオリティーは、予想していたより遥かに高かった。
豊富な種類の動物群。様々なコーナー。完全に中学生に戻っていた男二人を楽しませるには十分な内容であった。
個人的に面白かったのは霊長類を説明するコーナー。そこに鉄格子があって、向こうに鏡があり、覗き込むと鉄格子の向こうに自分が映るという仕掛けになっている。
何じゃこりゃと思ってプレートを見ると、
『世界で最も危険な動物 人間』
と書かれていた。おもしろい・・・。
そして、何より動物一頭一頭が見せる表情が非常に面白かった。
気高く胸を張るような、堂々とした姿勢で小便をするラクダ。どんなに遠ざかっても、ずーっと俺達を見続けるラマ。
リンゴを食べ終えた後、シャッターチャンスを待つ観客を尻目に大急ぎで四つんばいで帰るレッサーパンダ。
今回の目玉だった、滅多に動かない鳥『ハシビロコウ』も俺達を楽しませてくれた。
でも、一番印象に残ったのは、なんと言ってもゴリラでだった。
その時間帯はゴリラは、ガラス張りの屋内で見ることが出来た。一頭は、ケツを上に突き出して、くの字の格好でずっと地面のわらをいじくっていた。ケツの出し方が何ともセクシーだ。
ずっと延々とその格好でわらをいじくっている。それは、遊んでいるというよりもずっと何かを探求しているように見えた。
多分、わらを通して、自分の内面を省みているのである。彼はたくましい腕をして、力はかなり強いのだろうが、しかし心はかなり繊細で、自分の中を探求しだしたのである。
『もしかしたら君子の域に達しているかもよ。』
俺らはそんな感じのくだらないことを言い合って、楽しんでいた。すると、ガラスの隅に、このゴリラのデータが張られている事に気がついた。
俺は目を疑った。なんとこのゴリラ、1965年生まれなんだって!
41歳!?
そのデータによると、このゴリラは大阪の動物園で生まれ、それでここに移されてきたらしい。
え?マジで41?ってことは40年間も檻の中の暮らし?
すると、俺らにはさっきまでのくだらない妄想が急に現実味を帯びてきたように感じられた。そして、生きる希望を失って、悶え苦しんでいる人間を見ているような気がしてきた。
なんか痛々しい・・・。
だんだんいたたまれなくなってきた俺は、隣のガラス窓に進んだ。元気なゴリラを見て、気分をアップさせようとはかったのだ。
・・・・・・なっ!!
こいつ、座禅組んでますやん!
なんと隣のゴリラは、あぐらをかいて、まるで釈迦のように手を組み、頭を垂れて目を閉じているのである。まさに瞑想!!
こいつの生まれを見ていみた。1984年九月生まれ。ザッキーと同じ月!
同世代の人間が就活だの将来の夢だのと悩んでいるときに、彼はこれから毎日のように繰り返される日々に、解脱の境地でも探そうとしているのだろうか・・・。
終始笑いながらゴリラ館を後にした俺ら。しかし、何となくしこりが残った。『世界でもっとも危険な動物』か・・・。
外は哀愁の風が吹いていた。