洞窟で、春を祝う

三月四日、俺は自転車で千葉に向かいました。目指すはサクラモンテ。その日のイベントの会場です。
それはECOというメンバーが開催するイベントで、ドラマーの羽野昌二さんと千葉大の学生で共同でライブをするというもの。で、今回は、メンバーみんなで羽野さんの前座でもしようという事になった。


コンセプトは“冬眠を終えて洞窟で春を祝う”というもの。
どんな事をするかというと、まずジャンベという平手で叩く太鼓の民族楽器をベースに、色んな楽器を重ねてやるセッション。で、その合間合間に、時間を与えられた人がパフォーマンスをする。
パフォーマンスの種類は様々。音楽に合わせて絵を描いたり、でたらめに踊ったり、歌を歌ったり。
で、俺はそれに三線奏者として参加した、というわけである。
ネットで落とした地図を頼りに会場を探したんだけど、なかなか見つからなかった。それもそのはず。サクラモンテはキャバクラやら風俗やらがたくさん入った雑居ビルの地下にあって、昼間という事もあり、看板は出ていなかったのだ。
しかし、やっとの事で探し出して、いざ会場の中に入ってみると、その中の内装の作りに驚かされた。
鉄筋コンクリートが剥き出しになっていた。所々の、壁に穴をあけるために大胆に削られていたコンクリートの感じは、天然の岩さながらで、暖色系の照明はたいまつの炎を連想させた。
まさに、人工的な洞窟と言った感じ。これは凄い!
部屋の片隅を見ると、そこは少し盛り上がっていて、おそらくそこで出演者がパフォーマンスをすると思われる。他にもDJの卓や、でっかいスピーカーも置かれていた。
俺はサクラモンテには一番乗りだった。やがてスタッフが集まってきて、準備を終わらせるとリハーサルに入った。
俺はマイクの位置を確認させられた。この時、ドラマーの羽野昌二さんが色々マイク音の調整をしてくれた。
羽野「マイクチェック、マイクチェック、ハッ!!ワンツー!!ミキサーさんもうちょっとロー上げてくれる?」
マイクの音で、何がローで何がハイなのか、全然わからなかった。違いが全然わからない。
しかし、いざ自分でマイクに向かって声を出してみると、音のきれいさは格段に上がっていた。どこをどう調節したからこうなったのかはわからないんだけど、明らかに何かがさっきより良くなっている。
同じマイクでも調整の具合によって、自分の声の感じがこんなにも変わるんだって事を初めて知った。カラオケとは大違い。こんな調整ができる羽野さんの耳は、俺の様な凡人とは大違いなのだとおもった。
リハを終えてほっとしていると、いつの間にか7時になっていた。本番の時間である。
俺は本番になって初めて他の人のパフォーマンスを見ることが出来た。これがまた面白かった。
特に面白かったのは、野菜を包丁で切ってリズムを出すというヤツ。トントントンという音がテンポよくなり、さらにキュウリやセロリをほおばる音がして、会場から笑いが起きた。
また、笛を吹きながら、笛先についた筆で絵を描き、それをカメラで取り込んで、エフェクトをかけて壁に投影するというヤツもあった。マジでカッコいい。
やがて、アフリカの歌を歌った女性二人組が終わり、俺の番がきた。
・・・・
うおーーー!!緊張するゼーー!!!
俺はこういう場ではいつも失敗しまくりなんだよ(いずれ書くけどさ)!本番にマジで弱いんです。
今回も心臓が止まりそうになった。必死で笑顔でごまかして、ステージに立つ。
いざ舞台に立ってみて、急に不安になったことがあった。
それは、ちゃんと弦がチューニングされているか、という事。
俺の三線は、ネジがへんな感じにバカになっているため、すぐに弦が緩んでしまう。リハのとき調整したからといって、まだ音が当たっているとは限らない。
しまった、確認するの忘れてた!
にもかかわらず、迂闊にも体が勝手に弦を弾きだしてしまった。
あほか!ステージ上でもう一度チューニングしても良かったはずなのに!
もうこうなったら止められない。今のところ真ん中、下の二本の弦はならしたけど、音は当たっている。当たっていれば問題は無いのだ。
ところが、一番上の、太い弦を弾くと、ボンっていう変な音が鳴った。
うおお・・・めっちゃズレてますやん・・・
しかし、このときは、声がマジで絶好調だった。俺は結局この弦をほぼ弾かず、声で攻めた。もともと三線は歌に添えるための楽器なので、そうやっても十分様になった。
歌っていて、こんなに気持ちが良かったのは初めてだった。
いや、・・マジでこんなに成功したのは初めてだぜ!!イエーーイ!
前座が終わって、今回のメイン、羽野昌二さんとベース、キーボードのセッション(いずれもプロ)が始まった。
これは・・・・本当に、本当に、本当に、凄かった!!!!!!!!
あんなに狂ったようにドラムを叩くおっさんは見た事無いです。もの凄い複雑なリズムを、全身で刻んでいた。
右足でベースドラム、左足で・・・アレなんていうんだっけ。さらに両手で別々のリズムを刻み、さらに口でスキャットを絶叫していた。単純計算で5つのビートを同時に刻んでいた事になる。しかもアドリブで!!
その腕の速さは残像が見えるぐらいのヤバさだった。わけがわからない速度。
しかもその速度が一向に衰えない。30分ぐらいずっとその速度でも全然余裕そう。
さらに、リズムと一体化しているのか、瞬きはめちゃくちゃ速いし、顔面の筋肉はテンポに合わせて伸縮を繰り返していた。
このおっさん、アブナすぎ!!
しかし、本当のクライマックスはここからだった。
残り時間が少なくなってきたところで、ドラムを激しく叩きながら、羽野さんが絶叫した。
羽野「津田!!!出てこい!!」
津田さんというのは、デザ工の博士一年。この人がいきなり前に出て、狂ったように踊りだした。
すると、ジャンベの奏者が呼ばれて、一緒に演奏に加わってきた。
さらに、ジャマイカの歌(注:すいません、ジンバブエだそうです)を歌った先輩が、訳の分からない言葉で歌を歌いだした。
羽野「出てこい!!どんどん出てこい!!!」
あたりは騒然としてきた。
別の女の先輩が、手に鈴を持って乱入し、男の先輩(この人、元川上荘102号室の住人!)が笛をでたらめに吹き出した。
さらに、津田さんが踊りながらマイクを持って訳の分からない説教をしだした。そして、なぜかホッカイロを客に投げつけた!
すると、いきなり観客のおばさんが、ステージ前に乱入してきて踊りだした!このおばさんアブナい!!
すごい!!すごい!!
これは俺も三線奏者として参加せねば!
俺は三線を握って、カオスと化してるステージ付近に乱入し、マイクを三線にあてて、でたらめにかき鳴らした。
羽野「叫べ!!!叫べ!!!」
俺はマイクに向かって絶叫!!
ベースの人が暴れだして、弾きながらコードを振り回した!
「叫べ叫べ叫べ叫べ叫べ叫べ!!!!!!」
俺の三線の弦は、1本はとっくに切れてしまった。
津田さんは頭を振り過ぎて、今にも首が取れてしまいそうだ。
なんて混沌!!なんてトリップ状態!!
みんな神が乗り移った状態になった。トランスフォームド・状態だ!!
俺は、心が赴くままに三線をかき回しながら、古代人になった気分になった。
古代人が洞窟の中で、春の訪れを喜び、踊り狂っている。俺達の中の古代人の血が、喜びを爆発させているんだ。
春の洞窟の、宴は最高の高みにむけて昇っていった。