【ネタ】Y先生の個展での出来事

 

 


今日の話は、人見知りの感覚がわからない人にはよくわからないかもしれない。

僕はかなり人見知りな方で、これでも昔よりは大分解消できたんだけれど、年上だったり技術やら何やらが上の人には必要以上に恐縮、ともすれば卑屈になってしまって、話しかけられなくなる。相手が有名人になるとなおさらだ。

僕は先月、都内のギャラリーにある有名イラストレーターの個展に、ひょんな縁で知り合ったばかりの友人と見に行った。

 

 

個展を開くのはY先生といって、ものすごい画力でユーモアあふれる絵を描く有名なイラストレーター。おそらく誰もが一度は絵を見たことがあるはずだ。僕にとっても10年以上前から大好きな作家の一人だ。

 

 

その日は初日ということもあり、もしかしたら本人がいるかもしれない。いたら話しかけよう、とギャラリーに向かう道中に話し合った。まあ正直あんまり期待していなかったけど。でも、「もし本人がいたら..」という設定が、僕の中で妄想をかき立てた。それはあわよくば肩を組めるぐらいにフレンドリーになる、という妄想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャラリーはこじんまりとしてて、思ったよりは小さかった。中にはすでに8〜10名は来ていて、絵を見ていた。残念ながら、本人はいないようだった。

 

それで、二人バラバラになって、しばらくそれぞれのペースで絵を眺めていた。

すると。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いた。

 

 

全身真っ白のTシャツとハーフパンツを着て、知り合いとおもわれる方と話をしていた。

 

うわー、雑誌で見たインタビューの写真のまんまやん。。。

なんて思っていたら、後ろから友人に、「話しかけないんですか?」と聞かれた。

僕はそれで最初の道中の会話を思い出し、一気に緊張しだした。

 

そうだ、話しかけなきゃ。せっかく有名人にあったんだから、知り合いにならないともったいない。

だから、勢いのあるうちに話しかけようと思った。

 

ところが、なんて話しかければいいのか思いつかず、ギャラリーの真ん中につったって、自分の中にこもってグルグル考え始めてしまった。

 

 

 

 

「どう考えても、絵で食ってる巨匠に「絵が上手いですね」なんて聞いたらアホだ。でも、それを言い出したら技術系の質問なんてできないだろ。なんせY先生と僕では技術のレベルが違いすぎる。俺が頑張ってもすごい表面的な質問しかできないし、たとえ先生が技術的な話をしても僕には理解できないだろう。」

そんなことを考えると、だんだん卑屈になってくる。

「僕なんか先生に比べたら足元にも及ばないし、魅力的な絵もかけない。そんな人が先生のような偉大な人に質問すること自体おこがましいのかもしれない。」

だんだん、考えの卑屈度がエスカレートして、先生と同じイラストレーターを名乗っていること自体が恥ずかしく感じられるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ここで、絵の感想について、自分の語彙の無さに愕然とすることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵は本当に素晴らしいのに、本当にありきたりな言葉しか出てこなくなって、悲しくなってきた。

それは深みのない、薄っぺらい言葉ばかりだった。こんな感想をわざわざY先生に言っても意味あるんだろうか。。

 

ふたたび、突っ立ったまま頭のなかでグチグチ考え始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、じゃあその夢から逆算したら、どんな質問になるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうだめだ。僕はよくやった。

自分に激甘な僕はもう帰ることにした。できるだけさり気なく友人に帰るよと伝える。

 

 

 

 

 

 

「逃げるの?」は容赦無いぐらいハートを刺した。この状態の僕をこの場に留めるには最適すぎる、昆虫の標本を留める虫ピンなみに鋭利な言葉だった。

さすがに知り合ったばかりの友人に「逃げる人」って印象をもたれるのは辛い。

 

それで「いやいや、帰るのはもちろん話しかけた後っすよ〜」とか言って笑ってごまかす。

でも、それでますます話しかけなきゃ行けな状態になった。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬パニックになって頭が真っ白になった。

返事をしようにも言葉がでない。びっくりして言葉を探して目が宙を泳いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはTシャツが積まれていた。Y先生のイラストが胸に描かれたかっこいいシャツだった。

とっさのことだったので、特に理由もなくそのTシャツを手にとった。

 

 

そして、ついに言葉が見つかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言った直後、かなりイメージしていた言葉とは違うなとはチラッと思った。でも、そんなこと言ってらんないぐらい、心臓がバクバクしていた。

 

Y先生「うん、、あれ?Mサイズだけ積まれてないね。」

Y先生は積まれたTシャツを引っ掻き回してMサイズを探したが見つからなかった。

すると、もしかしたら在庫があるかもしれない、と言い出し、入口横にあるカウンターの奥に入っていった。

 

 

ところが、Mサイズが見つからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、ああいう場面で有名人と知り合いになれたら、また新しい世界が見えるんだろうな、という話が出た。ああいうところで、勇気と度胸を持っている人がチャンスを掴み、どんどん新しい世界への扉を開いていくのだ。シャツのサイズなど聞いてる暇はなかったのだ。

僕は笑いながら凹んで、帰路についた。

 

 

 

ところが。

 

一日の出来事として、このことをツイッターに書いた。

 

 

 

 

 

 


すると、なんと本人からリプライがきた!!

 

 

 

 

 

うおおおおおお!!!
Y先生の優しさに涙出てきた!!名前バレバレだけれど!!!!
今でもちゃんとTシャツ着てますよー!!!!