【ネタ】渡嘉敷島で釣りサバイバルをしようとした結果

1.

浪人一年目の2001年の夏、高校時代の友人ら10人ほどで、那覇市の東の海に浮かぶ渡嘉敷島に遊びに行った。

その島は慶良間諸島の一つで、那覇市の泊港から片道1時間半、往復3600円程度で行ける、とても行きやすい離島の一つなんだけれど、日本屈指のサンゴ礁を有する、海が非常に綺麗な島だ。

でも僕らの目的はシュノーケリングではなく、あくまで釣りだった。荷物を最小限にし、釣った魚のみで一晩過ごすことに決めていた。凄まじいサンゴ礁が広がる海なので、それこそバカスカ釣れるだろう、というのが、僕らの予想だった。

ブログに書くぐらいだから、当然そうはならなかったわけだけれど。

渡嘉敷島は離島とは言え、坂が多く、徒歩で歩くにはそれなりに大きかった。スクーターをフェリーに積んできたやつもいたが、殆どの人が重たい釣り道具を持って炎天下を歩きたくなかったため、結局フェリーを降りた港でそのまま釣りしようぜって事になった。本当なら白い砂浜に行ってひと泳ぎしたいところだけど、釣りでサバイバルするという変なマッチョ思想が僕らの間で幅を利かせて、誰もそんな主張はしなかった。

港をちょっと行くと、小さな集落があり、そこで釣具屋を見つけた。針など仕掛けに必要な道具を買い、餌用として売られていたサバの切り身を買った。

本来なら海釣りの餌として定番の生きたゴカイなどを使いたいところだったが、なぜかその時は店に置いてなくて、悩んだ末のサバだった。まあこんなに海も綺麗だし、どんな餌でも釣れるだろう。

また、釣った後の調理のために、アルミホイルと塩コショウ、マーガリンを買った。

2.

昼過ぎから釣りが始まった。ところが、海はどこまでも青かったけれど、魚の気配は皆無だった。コンクリートが鉄板のように熱かった。10人中、2〜3人は釣竿を持ってきていなくて、テトラポットの間を歩いたり、スクーターを乗り回したりしていたけれど、次第に暑さにぐったりして、頭にタオルを巻き、ものも言わぬ貝のように静かに座っていた。

やがて日が傾き出した。

それにしても10人分の食料となる魚を釣らなければいけない。一人最低1匹だとしても、10匹は必要だ。10匹ぐらい、こんな綺麗な海ならあっという間だろと思っていて、誰も食料を持ってきていなかった。だから、次第にみんな空腹を感じるようになってきた。それで、場所を移動しようという話が持ち上がった。

その時、僕の竿がガクンと引っ張られた。かなり強い引きだった。竿が大きくしなった。やがて、20センチ程度のヤマトビー(フエフキダイの一種)が釣れた。引きの強さの割には小ぶりな気がしたが、でもみんなの士気を上げるには十分なサイズだった。

だから、場所を移動しようという話は掻き消えてしまった。

この時移動してればよかったものを。。

 

3.

それからは開きかけた蓋が閉まったかのように、まったく魚が釣れなくなった。ついに日が暮れてしまった。その頃にはみんな疲労と空腹のあまり体力がなくなり、誰も移動したいなんて言わなくなっていた。ある人は売店からお菓子を買ってきて食べていたが、その売店も閉まってしまった。島の売店が閉まる速さは予想以上に早かった。

みんなの空腹は限界に近づいていた。

そこで、先ほど釣ったヤマトビーを食べてしまおうという話になった。

僕はヤマトビーを、いびつな形ではあるけれども三枚に下ろし、それを塩コショウ、マーガリンをつけてアルミホイルでくるみ、他の人が起こした火の中に放り込んだ。それで簡単なムニエルを作って皆で食べようと思った。

ところがその時、釣りをしていた一人の竿に強いアタリがあった。竿が激しくしなった。それはぼくの時よりも遥かに強い引きだった。

コレは大物だ。。

皆興奮し、一気にそいつに駆け寄った。一人がアミを準備し、水面に現れた魚の影が現れたらそれで掬おうと待ち構えた。ところが、魚が姿を表わす前に、激しい反動とともに糸がブチンと切れてしまった。

うおお、なんという事だ。。

逃げた魚は大きいというけど、空腹時はその大きさが何倍にもなるようだ。。

でも、この出来事で、みんなの切れかけていたバッテリーが一気に充電されたようだった。この狭い港の中に、確実に大きな魚が潜んでいることがわかると、みんな興奮して我も我もと竿を投げ込んだ。

 

するとまあ当然、みんな火の中の切り身なんかすっかり忘れるよね。

 

気がついて慌てて火の中からアルミホイルを掻きだして開いたら、ヤマトビーの肉は見事に火葬され、黒いパサパサした塊になっていた。試しに齧ってみたけれど、音もなくボロっと崩れ、口の中に灰が広がっただけだった。

しまった。。唯一の食材だったのに。。

もう、みんな空腹の空腹は限界に近づいていた。ある者は昼間に買ったお菓子の袋についた粉をペロペロ舐めだした。さらにある者は、マーガリンを直接掬って食べだした。もはや犬だ。人間のすることではない。。

そういう僕も限界だった。

頭もクラクラし、血糖値を上げるためにコーラを飲みまくってたけれど、だんだん気分が悪くなる上、甘いのを飲み過ぎて口の中が歯垢でベタベタに。しかも思考回路もおかしくなった。何か食べ物ないか、、と夜の港をさまよい出したけれど、当然食べ物なんかどこにもない。

と、その時クーラーボックスが目に止まり、何か入っていないか引っ掻き回した。冷静に考えれば、誰も食べ物を買ってきてなかったから入っているわけ無いはずだった。

でも、状況が変わると、物事の見え方も変わってくると言うか。
底の方に、立派な食材を発見してしまった。

 

それは、釣り餌用に買った数匹のサバだった。

 

袋に「釣りエサ」と書かれ、魚の食い物として扱われていたシロモノだった。
でもそんなことに構っていられなかった。とにかく空腹なのだ。食べなければヤバイのだ。

 

僕はサバを取り出し、アルミホイルを燃え尽きかけた焚き火の上に広げて焼いて食べた。

 

う、うまい!!

 

はっきり言って、こんなに美味しいサバを食べたことねー!!魚の餌だけど!!

 

他の連中も群がってサバの切り身を食べた。

釣りが一気にサバの塩やきパーティーになった。ちょっとしょっぱい味だった。