だいぶ前の話だけど、Suicaについてめんどくさい事があった。
その日はすごく急いでいて、全速力で駅の改札を突破しようとしたら、Suicaの残高が足りなくて改札にはじき返されてしまった。
それで、大急ぎで駅の自動発券機にSuikaカードを入れ、千円札をねじ込んだ。ところが、そこでピーーーッという音が。
何かがおかしいのでとりあえずカードを出そうとしたが、何度取り消しボタンを押してもカードが出てこない。すると、画面に、「係員が来るまで少々お待ちください」の文字が出た。
チャージ機が壊れてしまって、Suicaのカード自体も使えなくなってしまったとのことだった。
だから、新しいSuicaカードを明日渡すと言われ、みどりの窓口で書類に名前と連絡先を書かされた。古いSuicaのカードは返してもらった。使えなくなったカードをカバンに放り込むと、チケットを買って電車に飛び乗った。
するとそのおじさんは席を立って、新しいSuicaと昨日僕が書いた書類を持ってきた。そして、「じゃあ引換券を下さい」、と言われた。
新しいカードを受け取るには引換券がいるのだそうだ。
え、俺そんなの貰ってないんですけど。。。
僕は使えなくなったSuicaカード以外なにももらっていないはずだった。
一応、チケットやらレシートやらをサイフにしまう、、というか放り込む習慣があるので、サイフを見てみたが、やはり入っていない。というか、そもそも引換券なんてもらった覚えがないのだ。どんな券ですか?と聞いてみると、机にあった他の引換券を見せてもらった。それは映画のチケットのような、細長い券だった。全く見覚えが無かった。
「いや、そんなのもらってないですよ」
「え?そんなはずはないと思いますけど」
「じゃあ昨日の担当者はいますか?」
「いや、それが今日は休暇をとってましてねえ」
この「ましてねえ」に、ある種の嫌なニュアンスを感じた。「うわ、なんだかめんどくさい客がきたな〜」といった、めんどくさそうなニュアンスだ。
それでだんだんこのおじさんに腹が立ってきた。
「もらえるまでに14日かかります」
その間はいちいちチケットを買わなきゃいけない上に、1000円も戻ってこないのだ。
「じゃあ昨日の担当者に連絡して下さいよ、ちゃんと券を渡したのか聞いてみてください」
おじさんはしばらくためらったが、席を立ち奥に消えていった。どうも電話で確認をとっているらしい。
やがておじさんはもどってきた。
取調室で容疑者に話を聞くあのしゃべり方のまんまだ。そのしゃべり方に、文字通り頭に血がグワァッと押し寄せるのを感じた。
なんなんだ、このおっさんは!
全身の毛が逆立つ感覚を覚えた。
「そんなはずないでしょう、なんなら防犯カメラとか調べてくださいよ」
おじさんはまたなにか机の周辺をいじくった後、奥に消えていった。僕はもう、本当に頭にきていた。周りのことなんか、気にしようとしてももう無理だった。
Suicaを受け取りに来たのにもらえないどころか、太々しい態度を取られ、俺がもらってもいない引換券を無くしたかのような疑いをかけられる。頭がクラクラするぐらい我慢できないことだった。
なんとか気を鎮めようと、カバンの中をもう一度見た。すると、カバンの底に、昨日もらった使えなくなったSuicaカードが落ちていた。もうこのスイカは要らないから、財布にはいれてなかったのだ。それを拾う。
すると、、ペラっとなった。
よく見ると、Suicaカードの端っこにセロファンテープが貼られていた。そして、カードの裏にもう一枚、紙片が折りたたまれて貼られていることに気がついた。よく見てみると、それは券だった。ついさっき見せられた、細長い券だった。
こ、これは。。。
それで、思い出した。昨日の若い駅員さんは、「引き換え券をお渡しします、無くさないようにこのSuicaカードの裏に貼っておきましょうね」と言っていたのだ。で、僕はその表のSuicaカードしか覚えていなかったのだ。
頭の中にパンパンに詰まった血液が、底が抜けて一気に下に流れ落ちていった。サーっていう流れ落ちる音さえ聞こえたような気がした。僕は呆然となった。
おじさんはまだ奥に入ったままだった。隣の女性客は何時の間にかいなくなり、僕の泳いだ目線と、隣のカウンターのお兄さんの目が合った。お兄さんは緊張に満ち満ちた表情で僕を見ていた。
「ち、ちょっと時間がないので、Suicaカードはもういいです」
僕はくるっと振り返り逃げるように出て行こうとした。
すると突然、この若い店員さんがガバッと立ち上がった。
僕は驚いて振り返った。
その若いお兄さんは、眉毛を思いっきりハの字にすると、大声で「申し訳ありませんでした!」と叫んで頭を下げた。
申し訳ないのはコッチだよ!!