空振りした自己紹介

 

2005年の2月にロンドンに3週間滞在した。高校からの友人である山内真が現地の大学に留学していたので、彼の部屋に泊まることになった。彼はstockwellというところにある、縦に細長いシェアハウスに住んでいた。住人には日本人2人(真のほかにあと一人)のほかに、シンガポール人、台湾人、タイ人が住んでいた。ロンドンに来て初日。僕が初めてこのハウスに来たときは、まだ誰も帰ってきていなかった。

真の部屋に荷物を置いたあと、夕飯を食べることになり外に出た。

夜道を歩いていたら、真が自分の所持金があまり無いことに気がついた。それで、ATMにいくことにした。で、このATMは日本とだいぶ変わっていた。日本だと電話ボックスのようなガラスで覆われた小部屋に入っているのが普通だけど、ここのATMは建物の外壁にむき出しで備え付けられていた。防犯どうなってるんだろう。。

ATMは二台並んで取り付けられていた。真がカードを出して、お金を引き出そうとする。が、なぜかカードが吐き出されてしまった。そこで、隣にある別のATMで引き出そうとする。僕はその横に立って、引き出す様子をみていた。

と、そのとき、真が誰かに話しかけられた。東南アジア系の男だった。気さくに話しかけてきてちらっと僕の方を指差した。すると真がイエスイエスと答え、また英語で切り返す。

僕はそのときの会話はほとんど聞き取れなかったが、僕を指差したり、真が肯定したこと、そして、顔が東南アジアという事実を総合的に判断して、これは間違いなくシェアハウスの住人だと思った。おそらくタイ人だろう。

急に視界が狭まるほど緊張した。でも、出会いは最初が肝心だ。そこで僕は思い切って自己紹介することにした。

“ハーイ!マイ ネイム イズ ヤマザト!アイム フロム オキナワ!”

急な自己紹介に、一瞬東南アジア系の男は驚いたようだが、

”My name is ○○,nice to meet you”

と返してくれた。英語が通じた!あまりに久しぶりの経験だったので、ものすごく興奮した。

”ナイス トゥ ミーチュー トゥー!シン イズ マイ ハイスクール フレンド”

“oh…,really?”

東南アジアな男すごい笑顔になって白い歯を見せて、”That’s nice”と言った。僕は手を差し出すと、彼は握り返してきた。僕は調子に乗って彼の肩をパタパタと叩いた。人種を超えて、世界の人と意思疎通できるって、こんなに快感なのかと感動してしまった。

彼は「もう行かなきゃ」といい、向こう側へ歩いていった。僕は”ハブ ア ナイス デイ!”といって手を振った。向こうも手を振り返してきた。で、しまった、と思った。今は夜やんけ!ナイスデイじゃあないだろ。でもこんな気持ちのいい夜だからいいか。なんて最高な気分だ。。

ところが、横を見ると、真がポカーンとしている。そして、なんで彼に話しかけたのか聞いてきた。え、そりゃあハウスの人だから自己紹介しないといけないだろうと答えると、今度はなんであの人がハウスの人だと思ったの?と聞いてきた。だって、あの人は真に話しかけてたし、俺の方も指差していたし、そして真がそれに対してyesと答えてたじゃないか。

すると真が、そりゃあお前、全然違うぜと言い出した。

どういうことなのか。あの人は真に、隣のATMは使えないのか?と聞いてきたというのだ。俺が壊れたATMの前に立って邪魔だったため、彼はそのATMを利用できなかった。だからわざわざ真に話しかけたのだ。そして指差したのは俺ではなく、俺の後ろにあるATMだった。真はそれに対して、「yes,あれは壊れている」と答えていたのだ。

え、、、じゃああの人はいったいなんだったの?と聞くと、真は全然知らない初対面の人、と答えた。

「お前のいうことに戸惑ってはいたけれど、かわいそうな人なんだなと思ってちゃんと対応してたよ。少なくとも心の広い人だよね」

どこか遠くに行きたかったけどそこはすでにロンドン。人生に逃げ道なし。

 

ということで、今週もよろしくお願いします。

今週はありがたいことにいつもよりちょっと忙しいです。

皆さんもいい一週間になりますように。