間違って学生運動組織に参加した話 前編

やってる事があったのに、久しぶりに思い出して、どうしても書きたくなったので書きます。


入学手続きをしに、母と二人で千葉大学に訪れた時の事。一定の手続きをふまえて書類を出した後、西千葉駅を目指して大学図書館前の『かたらいの森』と呼ばれる広場の近くを歩いていた。
すると、そこに看板を持って何か訴える、前髪がぴっちりそろった眼鏡のにーちゃんに遭遇した。その兄ちゃんは野暮ったい格好をして、拡声マイクを使って何やら訴えていた。しかし、看板の内容が、角度的にこちらからは見えない・・・。
それで、俺はその人の横を通り過ぎるとき、ちらっと看板の内容を横目で見た。そこには『決起集会』といった言葉とともに、でっかく『イラク戦争反対!!』と書かれていた。
で、俺はものすごく興味を引き立てられたわけですよ!
当時は確かイラク戦争が勃発して一ヶ月たったぐらいだったと思う。テレビではさんざんその戦争の理不尽さが訴えられていて、なんかおかしいんじゃないの?と俺も漠然と思っていた。さらに、沖縄にはたくさんの基地があり、戦争によって何らかの影響が出るんじゃないのかと危惧されていた。
沖縄にミサイル飛んできてドカーーンってなったらどうすんだよ!
でも、俺はそんな論争ができるような知識を持ち合わせていなかったし、ただ戦争反対と思っていても何の意味もない事はわかっていた。だから大学に入ったら、少しでもそういう系の本を読んで、世界情勢の知識を身につけたいと思っていた(結局やってないけど)。
そこにこの看板である。興味がそそられないはずが無かった。
俺「スッゲー興味ありますよこれ。俺もあの戦争はおかしいと思ってたんです。アメリカは間違っていると思いますよ」
にーちゃん「そういう人を待ってたんだよ。俺たちと共に戦おう!」
俺「え?戦うんですか?でも俺何の知識も無いですよ?」
にーちゃん「大丈夫、勉強会も開くから。一度おいでよ!はじめは誰でもわからないもんだよ。ここに電話番号と署名を書いてくれないかい?」
俺「まじっすか!?それなら安心です!あざーっす!」
何が安心なのかわからないけど、俺は勢い良く署名用紙に名前を記入した。
その後、俺は先を言っていた母に追いつき、イラク戦争反対運動に参加する旨を伝えた。
すると、母は大いに驚いた。
母「あんた馬鹿じゃないの!!?あれは社会主義がどうのこうのっていてる連中だよ?もし本当にイラク戦争反対とか言ってるんだったら、“戦おう!”とか“闘争”とか“決起集会”とか書くわけ無いじゃないの!!」
俺は愕然とした。確かに、『戦争反対、平和を取り戻せ?』とか言ってる連中の割には言葉が攻撃的だった。
そうか・・奴らが噂に聞く学生運動家っていうやつか・・・
俺は頭に赤いヘルメットをかぶって、大学を拡声器で竹刀もって怒鳴っている自分を想像した。
ぜ・・・絶対嫌だ!!!
俺はとてつもなく恐ろしくなった。沖縄に帰ると、すぐにケータイのアドレスから電話番号まですべてを変更した。
これで足がつく事はあるまい。まさか入学した新入生何千人(?)のなかから、俺の名前を探し出してくる事はないだろう・・。ちょっぴりあの兄ちゃんに大して罪悪感がしたけど仕方ない、と、おれはそう自分に言い聞かせた。
ところが・・・・・・。
入学して二ヶ月ぐらい立った蒸し暑い日のことだった。俺が昼飯をアパートで食べて、いざ学校に向かおうとしていたとき、同じ学科の前川から電話があった。
前川「今日さ、英語の時間に、マササン(と彼から呼ばれている)の事知ってるかって聞いてきた人がいたよ。いま英語の授業を一つ一つ回っているんだって」
英語の授業は一年生の必須科目で、講座もたくさんあり、どの学部も必ずそのうちいくつかを受ける事になっている。つまり、その授業をしらみつぶしに回っていると、本人が欠席でもしない限り、かならず会える事になる。
しかし、誰がなんでまたそんなめんどくさい事するんだろう?
俺「?誰?どんな人だった?」
前川「なんかねー。眼鏡の人だったよ。」
・・・・まさか?
俺「もしかしてその人、前髪そろってなかった?」
前川「あ、多分その人だよ。なんか変な感じだったからマササンのこと知らないって言っといたけど。もしかしたらこんどマササンの授業に来てるかもよ」
以前からちょっと残っていた罪悪感もぶっ飛んだ。
ええ?ちょっと、もう二ヶ月前の話だよ??
まさか、この二ヶ月間、あきらめずにずっと俺の事を、英語の授業をしらみつぶしにして探していたというのか・・・?
えええ!!?うそーーー!!どんだけしつこいんだよ!!
ちょっとちょっと!!
ちょーーーーーこえーーーーーーーーーー!!!
つづく