闇の廊下

本当はやんなきゃならない事が沢山あるのに、久しぶりに全然気分が乗らなくてブログに逃亡。
このゴールデンウィークから、新たに某軽費老人ホームの夜勤のバイトを始めました。
まずはじめは研修で、5/4と5/7にIさんという、恰幅のいい、メガネで優しそうな目をした30代後半ぐらいのおじさんと一緒に寝泊まりをするという事になった。で、今回はそのうち印象に残った事を書きます。


今までは客として向こうにしょっちゅうお邪魔していたんだけど、いざ日夕苑の一員になると、皆さんが先輩という立場に早変わりしてしまい、その変化に戸惑ってしまった。
5/7の深夜。全身淡いエメラルドグリーンのトレーナーチックな制服を着て、Iさんと懐中電灯を持ち、暗い一階の廊下を歩いていた。
そこはデイサービスの廊下。
昼間は重い痴呆症等の老人がやってきて、いろんな体操とかをする。そのため、廊下の脇には様々な種類の補助器具がおかれていた。床は市松模様。ちょうどヴァン・ダイン著の『僧正殺人事件』を読んでいた事もあり、チェス盤に見えて少々無気味だった。
俺はそこからデイの利用者が使う風呂場(ここにも身体支持具が沢山あり、無駄に広くて不気味)の戸締まりを終えた後、職員用の入り口のカギも閉め、デイサービスの人が集う一番広い部屋に入っていった。
街灯のせいで、窓にかかる薄いカーテンが燃えるようなオレンジ色をしていた。
Iさん「山里君、ここの出窓のカギも閉めて」
俺は別に電気もつけず、カーテンに近寄り、窓のカギを下ろそうとした。
Iさん「あ、山里君、なるべくここは電気付けといいた方がいいよ、出たら困るから」
俺「あ、はい、わかりました。」
俺はあやうく聞き流しそうになった。
・・・・何だって?・・・出たら困る?
俺「え?ちょっと、伊藤さん、何が出るんですか?」
Iさん「出るったら、これしかないじゃないか」
Iさんは手を前にだし、幽霊の格好をした。
ところが、俺はこの話にビビるどころか、好奇心を丸出しにしてしまった。俺はこういう系の話が大好きなのだ。
俺「え?それはどういう系の幽霊ですか?足はちゃんとなかったんですか?誰が見たんですか?さすがに会話は出来ませんか?」
ほんと可愛くない後輩だと今になって自分で思う。
Iさん「俺は見てない。歩いていたらしいよ。誰が見たのかはさすがにいえない」
何で見た人をいう事が出来ないのかわからない。ただ、ここに幽霊が出る十分な理由があるという事はいえる。もう寿命で何人もの入居者の方が亡くなられているのだ。俺が課題できていたときも、実際に一人亡くなった。
Iさん「じゃあ、本日最後の見回りをしようか。山里君、今度は一人で五階から一階まで見てきてよ」
俺がビビらなかったせいか、Iさんもなかなか意地悪である。
俺は五階から廊下を歩いていった。老人が体調を崩して、うなり声でも上げていないか、という事を確認するのが主な目的だ。闇の中でうなり声でも聞いたら、心底ビビってしまうに違いない。
しかし、俺は意地を張って、暗い廊下を、あえて電気をつけず歩くことにした。
すると、俺の普段のホラー好きが祟って、どんどん怖い想像を膨らませてしまった。
俺が歩いていると背後から音が聞こえてくる。
ぺたっぺたっぺたっ・・・・
振り向くとそこには真っ白い老人が補助車を持って歩いてくる。でも、少なくともその老人は見覚えがない。
俺と目が合うと、そのおばあさんはお辞儀をした。すると・・・
おばあさん「すんません、あたしの部屋はどこでっしゃろ。」
俺「え?さあ・・・ちょっと把握してないっす」
おばあさん「あたしの部屋はここだったはずでしたんだけどねえ」
俺「・・・・・・・・?」
おばあさん「いつの間にか知らない人が住んでしまいましてねえ」
俺「・・・・・」
おばさん「話しかけても返事してくれへんのですよお」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
闇の廊下は脳を刺激するのだろうか・・・。本当に背後におばあさんがいるような気がする。しかし、運が悪い事に、俺は廊下の端まで来てしまった。ここまで来たら、後は引き返すしかない・・・。
背中に汗が噴き出した。勝手に想像を働かせて、心底ビビってしまった。
俺は幽霊なんか見えない・・・・。俺は霊感ゼロなんだ。
俺は思いっきり振り返った。
心臓が止まるかと思った。
廊下の途中に談話スペースがある。そして、そのすぐ上に着物を着た女の人の顔が・・。
しかし、それはよく見ると、細い線で描かれた、日本美人の絵だった。
また夜勤で、今度からは完全に何もかも一人でやらなきゃいけないと思うと、気がめいってくる。