やさしい心遣いに感謝です

1.

2003年の夏に、高校の同級生が沖縄で結婚式を挙げることになった。そこで、僕たちはビデオレターを作ろうということになった。僕は大学で映画を作るサークルに所属していたのでデジタルビデオ編集ができた。でも、肝心の編集に使うパソコンは千葉に置いてきてしまったので、友人の家で作業することになった。

 

2.
それで、初めての編集日に、僕は友人の実家に行った。その時は僕の他に3名ほどいた。家には、両親の他に弟と幼い妹さんがいるらしいが、この時は僕ら意外は誰もいなかった。

僕らは裏口から入っていった。もし玄関から出入りすると、家を出入りする際にいちいち家族のいるリビングを通らなければならず、迷惑だったからだ。でも、その裏口というのも、ほとんど窓みたいな引き戸で、こんなところから出入りするのは泥棒みたいだなと思った。

 

3.
しばらくたって僕以外の友人が近くのサンエーまで車で買い物に行く事になり、僕だけ作業の仕方を知っていたから、一人でお留守番ということになった。
でも、友人の部屋の中だったとはいえ、他人の実家で一人でお留守番をするのは居心地が悪い。もしここで親が帰ってきたら、僕だけが鉢合わせすることになる。もちろん面識はない。

親からしてみたら知らないにーちゃんが息子の部屋で息子のパソコンをいじってるわけだ。それを見て、どう思うんだろう。。
そう考えると、不安の影がどんどん心に広がってくる。

もしそんな時に、母親が俺のことを泥棒だと思ったらどう説明したらいいんだろう?実際窓みたいな怪しいところから入ってきているし。。玄関先に靴がないこと自体怪しい。それで警察に電話でもされたら最悪だ。
いや、あるいは弟や父と鉢合わせしたらどうか。最悪、いきなり殴られる可能性だってあるじゃないのか!

とその時、外から車の音が。慌てて、カーテンの隙間から外を見る。見たこともない車がバックで車庫に入ってくるところだった。家族の誰かが帰ってきたのだ。
しかも車ということは、父か母だ。父だった殴られる!

 

4.
やがて玄関が開く音がして、女性と若い男性の声が聞こえてきた。母親と弟のようだ。なにか喋りながら足音が聞こえてくる。そして、ちょうどドアの手前で、冷蔵庫を開いたり、テレビの音が聞こえてきたりした。この友人の部屋の手前はリビングルームになっているのだ。

僕は完全にパニックになっていた。これではいつ部屋に入ってきてもおかしくない。早く隠れなきゃと思った。でも、どこにも隠れられそうなところがない。と、その時「ちょっと兄ちゃんの部屋見てくるからね」と母親の声がした。
そして、背後でドアノブが回る音がした。

僕は・・・
気がついたら、布団の中に隠れてた。

隠れていた、というか、かぶっていただけだ。
どう見ても、どう考えても、人の形に盛り上がっている。いくら布団の中で死んだふりしても、外形が丸見えだ。

そしてドタドタ足音が聞こえて、パッと布団がめくり上がった。
僕は壁側に向いて背を丸めていたので見えなかったが、外の空気が流れ込んでくるのを背中で感じた。

 

終わった。。。。

 

ところが、布団はもとのように被され、足音が部屋の外に出て行くのが聞こえた。

僕はてっきり「誰?」とか聞かれるのかと思っていたが、そんなことはなかった。
警察に電話しに行くのかなと思ったが、そんなこともない。

 

5.
で、あとで友人に聞いたら、母親は俺らが来ているをもともと知っていたらしい。あの日帰ってきた時、隣の部屋でバタバタ足音がしたので、行ってみたら布団が盛り上がっていた。それで布団をめくり上げてみると、なかでプルプル震えていた人がいたそうな。

「『だから、声をかけるのも悪いからそっとしておきました』って言ってたよ。」

 

・・・・・・・・

 

や、やさしいお心遣い感謝です。。