ホームページ事件 沖縄の妖怪編

(今日は、昨日に記事の続きです。)
かくして、『沖縄の川魚』というテーマのホームページはめっちゃくちゃなものとなった。
先生「このままじゃあんたら成績どうなか知らないよ。」
それは大変だ。なんとかいい成績は欲しい。しかし、このままではホームページは出来ない。なぜなら、『沖縄の川魚』というテーマなのに、現在手元にある写真はテラピアと、悶絶している俺の写真しかないからだ。インターネットから写真を見つけてくるの能力を誰も持たなかった俺たちはまた釣りに行くしかなかったのだが、そんなことをしていたら提出期限に間に合わない。
俺「どうするテーマ変える?」
皆「じゃあ将樹が決めて」
俺「え?まじで?じゃあ、沖縄の妖怪な!」
俺の提案は驚くほどあっけなく通され、テーマは沖縄の妖怪に変更になった。
俺の中での構成は、まず沖縄の妖怪の絵を描いて、その後に説明を書くというもの。幸い俺の班には裕一郎と幸将という絵の得意な連中がいたので、絵を書く作業は実にはかどった。
元々妖怪好きだった俺はすぐに沖縄の妖怪を見つけることが出来た。説明文とあとがきは全部俺が書き、はじめの文句は裕一郎が書いた。
見ると・・・
『我々はこのページの前に“沖縄の川魚”という大傑作を作ったものの、権力に握りつぶされてしまった。なんと悲しいことか・・・・』
的なことが延々とつらつらと書かれていて、妖怪と関係あることが全く書かれてなかった。なんじゃそりゃ!
このサイトはほどなく完成し、無事何事もなく提出することが出来た。そして、次第にそのサイトの存在は記憶の彼方に忘れ去られていった。
一年後・・・・・。
俺は物理の時間の後、担任の先生から呼び出しを受けた。
先生「将樹・・・・なんかテレビ局の人がお前を取材したいんだって」
・・・・・・・・はああああ!!!???
俺「え!?どうしてですか?」
先生「なんか僕も詳しくわからないけど、沖縄の妖怪がどうたらこうたら言ってたよ。」
後で去年のパソコンの先生に話を聞くと、どうやら本土の関西のローカル放送局が俺らが作った『沖縄の妖怪』のページを見て興味をもったそうなのだ。その番組は、町中で活躍している、あるいはひっそりと頑張っている若者を取り上げる、若者版“情熱大陸”みたいなものらしい。
先生「でね、あんたが一番妖怪に詳しいんでしょ?あんたに密着したいんだって。」
なんということだ・・・・
遂に・・・遂に世界が俺に注目しだしたんだ・・・!!!
しかし、なぜ俺がこうも密着されなければならないんだろう・・?俺は日頃の生活を振り返ってみた。朝学校に行き、普通に勉強して(後に全然勉強しなくなる)、地獄のハンド部の練習に参加し、飯を食って勉強も何もせずひたすら寝るだけの生活。
“平凡”という言葉以外何も当てはまらない。
こんな俺の生活をテレビで流して何が楽しいのだろうか?視聴率がとれる様子などどこにもないような気がするんだけどそれは気のせい?
いやしかし・・・・
トゥルーマンショーとい映画が去年やっていた(当時は1999年)。あれは普通の人生を放送するという内容・・・。意外と普通の人生の方が、こんな世紀末にはぴったりなのかもしれない・・・・。
俺は本気でそんなことを考えていた。馬鹿である。でも俺はその頃は“情熱大陸”なんて番組を見たことがないし(そもそもやっていたのか?)、仕方なかったのかもしれない。
今考えれば、テレビ局の魂胆はおそらくこうだろう。
まず、俺が妖怪オタクであるということ。俺の家には妖怪のフィギュアが溢れ帰り、自分で書いた妖怪の絵が所狭しと山積みとなり、妖怪関係の本は書棚に収まりきれないほど。
また、その膨大な妖怪の知識を生かしてなんかのイベントに参加したり、あるいは協力したりする、バイタリティー溢れる変わった少年。それが俺で、その様子を密着して、テレビで流そうとでも思ったのだろう。
その方が面白いドキュメンタリーになるに決まってる。
でも当時の俺にこんなことを考えられるはずもなく、『とにかく普通を意識しよう』と思って家に帰った。すると・・。
弟「将樹、なんかテレビ局から電話が来ていたよ」
俺「なに!もうか!!」
全世界注目の男に一刻の猶予も許されない。俺は早速弟が書き留めていた番号をプッシュした。ものすごい緊張・・・。
プロデューサー(以下P)「はいもしもし」
俺「こ・・こんばんわ・・山里ですけど」
P「ああ!山里君か!見たよ君のサイト・・・。とても良かったよ」
俺「ありがとうございます」
P「ところでさ、今度そのことについて君を取材しようと思うんだけど、事前にいくつか聞いておきたいことがあって」
俺「はい、いいですよ」
P「君は妖怪について詳しいみたいだね?」
俺は妖怪の知識には自信があった。
俺「あ、かなり自信ありますよ。妖怪の本とか読みまくりましたし」
するとPは食いついてきた。
P「ああそう!妖怪の本読みまくったんだ!じゃあ、今もその本は家にあるのかな?」
俺「ああ、本なら、読みすぎてボロボロになったので捨てました。」
P「えっ・・・」
空気が読めてないのにもほどがある。
明らかにPは戸惑ったようだ。
P「あの八重山に現れたという人魚の絵、うまかったね!君は絵は得意なの?」
俺「得意ですよ!この前授業で描いた絵が、今度の文化祭のポスターになったんです」
P「そうか!じゃあ、君は妖怪の絵とかも書くの?」
俺「いや?、妖怪はあんま描かないっすね?」
P「え?かかないの?」
またしても会話が途切れてしまった。なぜ?
なんとかしなきゃ。
俺「でも俺、メガマンの絵は描きますよ。」
P「?なにそれ?」
俺「俺の友達が作ったキャラクターです」
P「それは別にいいんだ・・・。」
え・・・そうなの
P「じゃあ最後の質問だけど、君は何か趣味を持ってる?」
俺「え?趣味ですか?」
ここは最後の質問だから、なんとかいい答えを出したいところだ。
俺「趣味はありますよ。俺の趣味は、・・・散歩です。」
“俺は馬鹿です”と言ってるような答えである。
P「・・・散歩・・・・」
俺「そうです。散歩をすると、普段思いつかないこともいろいろ思いついたりします。草木のにおいもいいですし。また明日から頑張ろうって気になるんですよね。」
P「そう、じゃあ、ゆっくり散歩をして、いい発想をして、漫画家にでもなってよ。」
俺「あ、漫画家ですか!はい!頑張ります!」
電話を切った俺の心は晴れ晴れとしていた。だって、俺は応援されたんだぜ!どこかのプロデューサーに!こりゃガンバルッキャないぜ!!
その後、取材依頼がくることはなかった。
ホームページ事件終わり。