黒浦崎VS納豆仙人 その1

(注意:この作品はかなりきもいので、ひきそうな人は注意してください)
ここは黒渦町。S県の流通の交差点として昔から栄え、様々な市が開かれて来た商業の街。
そして、その裏手には、巨大な黒渦山がそびえ立っている。なぜその名前がついたのか、その山を一度見たものはすぐさま理解する事が出来た。
なぜなら、その山は巨大な渦を巻いているからだ。まるでソフトクリームのような。どうしてそういう形になったのか、学者も誰もわからない。地殻変動とは考えにくい。
そして、誰も知らないもう一つの事実があった。この山には、かつてこの世を地獄に変えた、ある恐ろしい魔術師が三百年の眠りから、今まさに目覚めようとしているという事を・・・。
その日、黒渦町では年に一度の納豆市が開かれた。全国から集められた納豆が大々的に売られる一大イベント。
今年19歳になって間もない岡村もこの納豆市に参加していた。
彼はこの市でたくさんの納豆を売りさばいて、お金を貯めて指輪の資金にし、まだ若いのにもかかわらず故郷の彼女に結婚を申し込もうと思っていた。
岡村「うわ・・すごい山。」
親方「おい、ぼさぼさするな、新米」
岡村「あ、すいません」
親方「それとな、あの山にはあんまり触れるな、あそこは昔から縁起が悪い場所とされて来たんだ」
岡村「はい」
親方「こんなときに変な厄を引き込んだらかなわんからな。少しでもげん担ぎをするべきなんだ」
岡村(縁起が悪い・・・)
彼らの納豆は非常に有名なブランドものだったので飛ぶように売れていた。
しばらくして、ある老人がやって来た。
この老人はぼろぼろの緑色の布切れをまとい、ひげが伸びていて、何故か目がグラサン焼けをしていた。布のせいで体の輪郭がよくわからないが、かなりやせているようだ。
その老人は、彼らの納豆一つ一つ丁寧に眺めていき、その出来を確かめた後、今度は何故か岡村の顔をじろじろながめだした。そして老人はとんでもない事をいった。
老人「なんじゃこの納豆は。全然なとらん。未熟者の作るゴミだ。悪い事は言わない。さっさと店をたたんでかえれ」
岡村「え?・・ですが」
親方「どうした」
老人「あんたが親方かのう」
親方「そうだ。俺の納豆に文句があんのか?」
老人「こんなゴミ納豆は初めてじゃといったんじゃよ。ここに店を出す資格はないね」
親方「何だとこのくそじじい!自慢じゃあないが、地元ではダントツの人気を誇る、名門ブランドなんだぜ。悪いけど帰んな」
老人はもう一度岡村を見て、その後立ち去って行った。
しかし岡村には確かに聞こえた。老人のかすかなつぶやきが。
『・・せっかく救ってやろうと思ったのにのう・・』
親方「あ、あのくそ老人め、財布忘れてやがる・・」
岡村「届けますか?」
親方「いいよほっとけ」
その時はまだ、黒渦山の方から、巨大な黒雲がわき上がっているのに気付くものは誰もいなかった。
                   
つづく