恐竜博にバイトに行こう!その4 その男、ひとり狂えり編

もう昨日は精神的にも肉体的にも大ダメージを受けたでやんス!
ちょっと聞いてくださいよ?!
俺昨日から喉が痛くて、大変だったンす。それはすなわちあの恐竜グッズ売り場の空調の悪さに原因がある。あそこはいかれてるぐらい短時間でホコリが大量につもるし、売り場が地下にあるってこともあって、空気もこもっていてずっといると気分が悪い。さらにそこにゴールデンウィーク中の大量の人たちが怒濤のように押し寄せてくる。もちろん様々の病原菌もいろんな人たちの息などから吐き出されるので、潔癖性なら鼻血ブーなほど大量の雑菌がその狭い空間にうようよしているのだ。ザッキーなんかとうの昔に死んだ。
で、俺も現在38度の熱で床に伏しているのであります。
でも俺が聞いてほしい事はそんな事じゃないんだーーー!!!!
俺が聞いてほしいのは精神的ダメージの方でやんすよ!あの売り場、独身男性を狂わせるような、きもいきもい瘴気のようで満ちあふれているのであります!
とりあえず、俺は連日4時間睡眠で10時間労働を5日連続でやって来たわけですよ。5分ぐらい一カ所に座っただけで睡魔で熟睡ってのがずっと続いてたわけですよ。当然体にがたが来て、喉が痛くなって、それでものど飴をなめながらけなげに働いていたわけですよ。
すると当然ストレスもたまるわけですよ。ええ。
精神構造も微妙におかしくなるわけですよ
彼女も欲しくなるわけですよ。イライラもするわけですよ。
そんな俺がキティちゃん売り場で品出しをしていたときの事(なんとこの店、今回の恐竜博限定のキティちゃんを発売するというかなりの反則技をやらかしているのだ!)。今売ってるキティちゃんは赤紫の恐竜の着ぐるみを身にまとったかなりきもいやつで、俺がそれを並べている時「やだ?、何これ、きもくてかわいさのかけらも無いんだけど」とか「これ、反則だよね」とか言ってる客がいる。わざわざ店員に聞こえるようにいうなよ?とか思うんだけど、その感想には俺も賛成なのでそれほどストレスはたまらない。
でも、バカップルの連中がくると話が違う。
女「ねえねえ、見て見て!キティちゃんがいるよ!かわいい?!」
男「ほんとだ!すっげ?な!こんなかわいいの初めて見たよ」
女「ほんと!ちょ?かわいい」
男「よし、俺が脱がしのテクニック見せてやるよ」
女「きゃー!キティちゃんが裸に?(以下略)」
たまらず俺はその場を逃げ出した。これはムカついたのか?それとも嫉妬なのか!?俺のメーターがゴーってあがったので、(あーあ、やっべー、喉が痛い)と言ってのど飴をなめる事でその場をやり過ごした。しかし次の瞬間とんでもない光景を目の当たりにした!!
レッチーマジックハンドっていう商品があって、ようはマジックハンドなんだけど、それで男が彼女の左胸をわしづかみにしていたのだ!公衆の面前で!!俺のメーターがドゴーーーってあがった!のど飴をなめてやりすごそうとして逃げ道を探そうとしたら、ペインティング・スー(ティラノサウルスのフィギュアに色を塗って遊ぶおもちゃね)の前でとどめを食らった。
女「ねー、見て!スー(ティラノサウルスの名前)に色が塗れるんだって!」
男「え?ナニがヌレるんだって?」
女「も?!しょうたんのエッチ!」
ドドドドドカーーーーーーーーン!!!!!
気付くと俺はトイレの個室にダッシュして、震える手でポケットから最後ののど飴を取り出し、それにすべての妄想を詰め込んで、ガリガリかんで飲み込んだ。
感じたのは喉の痛みと、むなしさの味だった


ニワトリと風呂桶 その2

その日の深夜に、俺はニワトリの鳴き声で目が覚めた。変だよな、普通ニワトリが夜中に鳴くか?でも俺はそんな事は気にも止めず、ひどい熱帯夜の上にクーラーの無い古い平屋だったから、あつくて寝付きが悪かっただけにひどくイライラした。
もう一度寝付こうとしたとき、隣の部屋から戸が開く音がした。そしてしばらく足音が鳴ったかと思うと、今度は蛇口をひねる音がした。隣の部屋は一緒にすんでるばーちゃんの部屋だ。ばーちゃんが台所で何かやってるんだ。行ってみると、やっぱり水を出しっぱなしにしているばーちゃんがいた。ばーちゃんはランジェリーをつけてた。あちゃあ・・・
「ばーちゃん何やってるの?」
「あ、まさき(仮)?あんた起きてたの?」
「え、いや、さっき目が覚めた」
「あんた、今ニワトリの鳴き声聞いたでしょ?」
「え?ん、まあ」
「怖いよ?、夜中のニワトリは。民家に火ぃ放つわけよ。」
「火?」
ニワトリがマッチ擦るのか?
「おばーのお父もそれで死んだわけ」
「え?で、今何やってんの?」
「蛇口の水を出しっぱなしにして火をつけないようにしてるわけさ。まさき?も早く風呂桶に水入れきて」
蛇口から水を出すってのはおまじないかなんかなのかな。俺は風呂場に向かった。別に信じたわけではなかったんだけど、確か親父がニワトリの事を『ふらり火』と呼んだ時、『化けニワトリ』ならまだしも、なんで『火』がつくんだろうと思ったのを思い出したのだ。
風呂場は家の中で台所の反対側の位置にあり、そこまで細い廊下が続いている。俺は薄暗いその廊下をとぼとぼ歩いていった。親父とお袋の寝音が気持ち良さげに聞こえて来た。
(あーあ、なんでこんな時間にこんな事やってるんだろ、早く寝よ。)
その時だった。
バサッ、バサッ、バサッ
廊下の奥から、まるで大きな鳥がはばたいているような音が聞こえてきた。
俺は廊下で立ちすくんでしまった。汗が一気に吹き出した。
廊下の奥は、風呂場だ。
俺は意を決して風呂場の引き戸を開いた。
するとそこには、昼間の巨大なニワトリがいた。風呂場の高いところにある窓からはいって来たらしく、窓は大きく開け放たれ、月の光がこうこうと差し込んでいた。相変わらずニワトリは無表情で無機質な顔で俺を見ていたが、昼間とは違って、全身の体毛が茶色から、燃えるような赤に変わっていた。
俺は夜体毛の色が変わるニワトリなんて聞いた事が無い。もしかすると、今まさにこの家に火をつけようとしているんじゃないか、と思うと俺はぞっとした。
ふらり火はまだ無機質な表情で俺をじーっと見ている。俺は、激しく緊張しながら、やつを刺激しないようにそーっとそーっと風呂桶に回り込み、その震える手で蛇口をゆっくりひねった。水は勢いよく出ているのに、俺にはじれったいほどゆっくりたまっているようにしか感じられなかった。気がつくと、ふらり火も俺と同じように風呂桶の水を覗き込んでいた。
俺は激しく緊張していたのにも関わらず、月の光の中で、お化けと俺が一緒に風呂桶の水を覗き込んでるなんて、なかなか趣があっていいじゃないかとふと思った。
やがて、水面は月を映し出す位置にまで上って来た。すると、ふらり火がしゃべった。
「あ?あ、命拾いしたね」
俺の親父の声に似ていた。そして俺の声にも似ている気がした。
そして、それと同時にふらり火は飛び立ち、窓から外に出て行った。
俺はへなへなと壁にもたれかかってぺたんとタイルの上に座り、窓から月を眺めた。いつの間にか桶から水が溢れ出し、ズボンがびしょびしょになっていた・・・。
                           おわり


ニワトリと風呂桶 その1

今日は本当は『恐竜博?その3』を一度書いたんだけど、ネットに載せるにはあまりふさわしくないなと思って自粛しました。代わりに、浪人なりたてホヤホヤのときに書いた暇つぶしストーリーを紹介します!
         
ニワトリと風呂桶
当時高二だった俺は、サトウキビ畑の間の白い道を歩いていた時、胸の高さほどもある大きな茶色い鶏を見つけた。
バカにデカイニワトリだ
みんなの見せ物になると思った俺は、そいつをすぐに捕まえて、近くにあった縄を、ちょうど犬の首輪のようにくくりつけた。ニワトリは全く抵抗を示さなかった。ただ一つ気になったのは、こいつが無機質で抜け殻のような目をしている事だった。何じゃこいつ、ほんとに生きてんのかな・・。
しばらくそいつを連れて歩いていると、畑の隣に軽トラックを止めて中で居眠りしようとしている親父に出会った。
「おい、何だ、そのデカ物は」
「すげーだろおやじ、あっちの道で拾った」
「こりゃすげーや、晩飯二日分にはなるぜ」
親父はトラックから降りると、俺のニワトリに近づいた。
すると、親父は何かに気がついたのか、少し距離を置いてそのニワトリの目をまじまじと見だした。
「・・・こいつ、ニワトリじゃないぜ」
親父らしくもなく顔を曇らせていった。
「はあ?」
「こいつは『ふらり火』っていう化けもんなんだよ、いますぐ捨ててこい」
「なにいってんだよ」
「早く捨ててこいって言ってんだよ」
親父が怒鳴ったら怖い。
「わ、わかったよう」
でもまさか俺が本当に捨てるわけがない。こんな特大ニワトリ捨てるのなんてもったいない。俺は既にこいつを隠すシークレットスポットを考えていた。家の裏手にある物置小屋。ガキの頃に作った秘密基地の跡。仲間に大工の息子がいて、そいつがうまくやったからいまでも残っている。そこに首につけたロープを柱にくくり付け、ニワトリを小屋の中に隠した。唯一怖いのはハブだけどこれだけデカイニワトリだ。殺して食ってしまうだろう。
しかし・・
何て無機質な目をしているんだろう・・・。生命の光というものをまるで感じさせない。目を見てると冷たく沈んだ感じになる。
親父はおびえてたのかな。ついに一回もこのニワトリに触らなかった。
なんか引っかかるなぁ
ま、いっか!
その日の深夜、俺はニワトリの鳴き声で目が覚めた。
                        続く


恐竜博にバイトに行こう!その2 ザッキーの甘い妄想編

今日、ものすごく切ない夢で起きた。俺の友人の女の子が何故か”インファナル・アフェア”っていう映画に(俺は本物の映画を見た事が無いのにも関わらず)出ていて、俺にさよならを言ってどこかのビルの屋上から川に身を投げるというものだ。すごく悲しくて、泣きそうになってガバッと起きた。ロフトでは居候のitoがグーグー寝てる。何なんだろうね、この夢。俺の中のぐるぐるがまた一段とぐちゃぐちゃして来た。
電車で上野まで、俺もザッキーも寝たり起きたりしてた。ここ数日間ろくに寝てないっす。上野公園を歩いていて、ザッキーがおもむろにしゃべった。
「おれ、今日寝たいわ」
バカか!俺もねたいわ!
以下ザッキーの妄想
木村(主任ね)「今日は将樹君はレジね。」
木村が去ろうとする。
嶋崎「しゅ、主任」
木村「何だね」
嶋崎「僕は・・僕は今日は何をすればいいんですか?」
木村「嶋崎君、君は寝ていなさい」
嶋崎「しかし主任!」
木村「ばかっ!!」
嶋崎「・・・・・・」
木村「・・・・・・」
(何がバカなのかわからないから二人とも何も言えない)
バイト先にはかわいい女の子が数人いてマジいいんだよね?
でも俺は昨日と同じような売店うろちょろだから特に話す機会がない(作ればいいだけの話なんだけどね)。ところがザッキーの場合は別で、レジだから女の子にいろんな事を教われる。
「人波が途絶えたときの会話が重要だよ(にやにや)」
しかし、そんなザッキーでさえまだ一回も話した事が無い女の子がいた。その子、かなりかわいいんだけど、この前のビッグライトにつづき、この子もめちゃくちゃみっちゃ★さんに似ているのだ!細さとか髪型とかね。目元も似てる!
「まーしー彼女に声かけなよ!」
以下ザッキーの妄想
みっ★んさんに似ている女の子(以下『み—子』)がレジをしている時、スタッフの俺が買い物をする。
俺  「これください」
み—子「え?(すこしとまどう)・・○○円です。」
み—子が近くの袋を取り、品物を入れようとする。その時
俺  「あ、袋なら俺が入れますよ、一応スタッフですから」
み—子「大丈夫ですよ」
俺  「いいからいいから・」
み—子「あっ・・」
その瞬間俺の手とみ—子の手が重なり合った
俺  「み—子さん、僕・・ほかにも買いたいものがあるんです」
み—子「・・なんですか・・・?」
俺  「・・・あなたの心です」
み—子「あたしを連れて逃げて!」
ザッキー「俺だったら絶対逃げるわ?」
ばかか、逃げるってなんで逃げんだよ!何だよそのシチュエーションは。
・・・・・いや、おれも逃げるかも


恐竜博にバイトに行こう!その1 男の戦い編

今日、さとかちゃんがマイク・ベルナルドにTKO勝ちする夢で目が覚めた。
朝七時に西千葉駅でザッキーと合流。目指すは上野の国立科学博物館であります。バイトをするのです。初め友達からこの話を受けた時”具体的になにすんのかなー”って思ってたらデザ工のオクサンに”恐竜役じゃね?”って言われてビビってたんだけど、ふたを開けてみるとなんてことはない、ただの恐竜グッズ販売店員だった。
今朝のザッキーはトローンとしていた。聞いてみると昨日は別のバイトで三時にしかねれなかったらしい。つまり三時間睡眠。キツ?。
「これでレジとかやっちゃったら僕うまく対処できるかわからないよ」
「僕とマーシーのどちらかがレジやれって言われたらマーシーやってよ」
といって、やつは極端にレジにつく事をいやがってた。
もちろん俺だって嫌だ。しょっぱなからリスクのある仕事なんてしたくない。俺がやったってテンパってミスっておこられるのが目に見えまくりだ!しかも右耳聞こえんから聞き返すのも多くなるだろうし。いやいやいやいや、俺がレジなんてあり得ないっすよ!おお?ゴッドよ?!!俺をレジに振り分けないでくだされ!
すると現場について、俺はもの運び、ザッキーはレジって仕事が割り振られた!やった!ザッキーはへこんでる。わっしょいわっしょいだぜ!
俺は先輩から陳列されているものを整理して、足りなくなったものは補充してって言われた。俺はお易い御用だぜ!って気分で現場を軽快に歩きまくった。フンフンフ?ン、タオルもオッケー、Tシャツオッケー。これもオッケー、これも今は直す必要は無いな
・・・・
・・・・・・・・・・・・暇だ
そう、俺は暇だったのだ!何にもする事が無かった。次第に客が増えて来ても特に何もする事なく現場をうろちょろするだけ。
俺はサッキーの方を見た。ザッキーは笑顔でせっせせっせと客の商品を買い物袋に入れている。そのザッキーの姿・・なんてさわやかなんだ!まるで本当に仕事を楽しんでいますって感じだ。
これは俺も負けてはいられない。俺は床に落ちているレシートを全力でもぎ取った。拾えばいいだけなのに、その体の動作一つ一つにこだわったのだ。さあ、次。・・次が無い。
ザッキーの方を再び見ると、輝きすら放っているように見えた。
『落ち着け・・隣の芝は青いって言うだろ』
そう、俺はもっとでっかい事が出来るはずだ!あんな商品袋詰めな作業、猿でも出来るぜ!俺はバイトの身分であるにもかかわらず、この灰色の脳細胞をフルに生かし、愛と勇気でむしろクリエイティブ的な仕事をしてやろう・・それでスーパーバイトマンになるのだ!俺なら出来る!!
そんな俺の目の前に立ちはだかったのは、ビデオカメラで幼子を撮るロリコン中年(単に息子を撮っていたとも考えられる)。おれはそのカメラの前を横切って、極悪非道の悪事を妨害する事を試みた。くそっ・・・・何てかっこいいんだ俺!
はじめの一回目・・何故かものすごく緊張したがなんとか通過・・
二回目・・・・楽勝
三回目・・・ここで俺はさりげなくカメラ目線をおくる事にしようと思った。うおお・・何て怖いんだ。しかし俺は引かない!引かず!媚びず!省みず!!
その瞬間、俺は”あ、撮影してたんですか。邪魔しました”という目つきでカメラにちらっと目線をおくる事ができた!!やった!成功だ!!俺は・・俺は勝ったんだ!!やった!!バンザーイ!
・・・・・・・・・・なんだろ、この敗北感