堕落の快楽

全く要領を得ない俺は今朝もひどくドタバタしていた。
何を買いに行ったのか忘れたけど、ライフセンターに行って、その帰り、研究室のある三号棟の前で、西方に遭遇した。


西方は髪を切っていて、UKロックバンドのような印象を受けた。白いYシャツにジャケットという非常に寒そうな格好をしていた。だって今日は後に雪が降ったのだ。寒いに決まっている。
西方「かずたか(ズン)どうだった?なんで火事が起きたの?」
ヤツはズンの火事がよほど気になっているようだった。そりゃああんなにお世話になった家だ。気になるし、しかも友人の部屋が全焼なんて大事件もいいとこだ。
西方「昼にかずたかと三人で飯を食おうよ」
12時に奴らと再会を誓ってその場は別れた。
俺はそれまでに重大な任務を遂行しなければならなかった。ケアハウス日夕苑にFAXを送ることである。約束では今日の午前中に送ることになっていたが、もう十一時半だ。急がなければ。
原稿を書いて、先生のところへ。原先生は非常に急がしそうだった。
俺「ファックス借りてもいいですか?」
原「そこにあるヤツ使って。0発信だから」
でも、先生が刺したところには訳の分からない機械ばかりが並んでいて、どれがファックスかわからない。
しばらく探して、ファックスらしきものを発見。間違いない。これがファックスだ。まるでコピー機の小型版のような形をしていて、家庭用のヤツとは大きく違う。
いざというところになって、どうやってこれを使うかわからないということに気がついた。
原稿をセットし、ネットで調べた番号をインプットして、スタートボタン・オン!
・・・なんにも動かず。
なんで動かないんだ?全くの謎。ゼロ発信にヒントがあるのか?
ってか、ゼロ発信てそもそも何?
仕方なく先生に聞いた。
原先生はイライラしたようだった。
原「お前はファックスの使い方も解らないのか!?ゼロ発信だよゼロ発信!」
そういって席を立つと、隣の部屋につかつかと行ってしまった。
だからゼロ発信ってなんなんだろう・・・・・
ぽつんと残された俺は、なんか常識も知らないヤツという烙印を押されたようで、気分が悪くなってきた。結局セブンイレブンで説明を見ながらファックスする。
嫌な気分だぜ。ああああ、嫌な気分。
遅れてガガルに行くと、西方とズンが話してた。西方は、ズンの火事の話を前に、神妙な顔になっていた。
俺の中ではもうズンの火事はネタと化しているわけで、その神妙さが笑えた。
西方「じゃあ・・・もう、カラオケすっか!!!」
俺は今課題で切羽詰まっているわけではないが、じわじわと首を絞められている感はする。だから、すぐにでも研究室に帰って課題をしたかった。
でも、あの、些細な、些細なファックスの件で、俺のガラスのようにか弱い心はかすり傷を負ってしまい、カラオケで一時間でも歌いたいという欲求を全身の毛穴から全力放出だったわけで、即オッケー。
西方は西方で、火事について心的整理がしたかったのか、すっかりカラオケモード。
そういう意味では一番火事の被害者ズンがあまりカラオケに行く理由がなさそうなのだが、持ち前のノリの良さで即オッケー。
昼間っからカラオケ屋にゴー。
しばらく歌ってたら喉が渇いてきて、西方がビール瓶を二本も注文。
よせばいいのに、俺は調子に乗って、そのうち1本分を飲み干してしまった。
ああ・・・昼間っから微妙に千鳥足・・・・
これから課題があるのに・・・いっぱい資料見ないかんのに・・・・・
でも、気分は最高なのだ。
気分は最高。
でも、破滅に向かってるときの気分の良さだよな。これ。