幻のコリンザ


三月の初めに、僕は山内真と沖縄市にあるサッカー場にFC琉球のホーム開幕戦にいったんだけれど、その途中「コリンザ」と呼ばれる建物に入って衝撃を受けた。



↑コリンザ(なぜか外観の写真を撮っていなかったので、ネットから拾って来ました。)

 

「コリンザ」は、いわばイオンのような複合型商業施設で、外見もそれと変わらない。ところが、中に入ってみると、テナントがほとんどない。本来テナントが入っているはずの場所にはシャッターが降り、フードコートだった(であろう)空間には、テーブルが雑然と並べられ、朝からビールを飲んだおっさんが一人、新聞を読んでいた。建物全体が薄暗く、もちろん音楽もかかっていない。まるで廃墟のようだった。

 

 

 

でも、ここはもちろん「廃墟」ではない。

建物内が薄暗いとは書いたが、実は場所によっては蛍光灯はちゃんとついていた。しかも、エスカレーターだって動いていた(一部壊れて動かず、歩いて降りなきゃいけない階もあったけど)。

さらに、3階には小劇場あしびなー、2階にはハローワークが店を構えていた。そして有料駐車場も完備されていた。

ここはほぼ死んだ建物だったが、完全に死んではいなかった。いわば人工呼吸器でつなぎとめられた植物状態だった。

あとで調べたら、この施設は第三セクターを経営母体として、「中心市街地活性化」を合言葉に市が主導して作られたのだそうだ。しかし、よくある話のように、経済的な見通しが甘く、開業して一年後には、売り上げは当初の計画の40パーセントしか出ず、みるみるうちにテナントが抜けてスカスカの状態に。膨大な借金を抱えてにっちもさっちもいかなくなり、2010年に第三セクターは解散。

当時の新聞によれば、市が施設を受け入れる流れになっているようだったが、結局、今のように生きたまま廃墟になってしまった。税金という人工呼吸器を取り付けられて、かろうじて生きているのだ。

でも、僕はというと、失敗した感じ満載のこの空間がすごく心地よくて、むしろそこに驚いた。物凄い非日常感。人がほとんどいないのにちゃんと稼働している終末的な雰囲気。廃墟のような死に切った過去の遺物ではなく、今なおジワジワ死んでいっている感じ。これが独特だった。何かの大戦が起きて人口が激減した後の世界のデパートのようだ。

そして更に奇妙だったのは、こんな薄暗い空間なのにもかかわらず、客が全くいないわけではない、ということだった。

少なくとも数組の家族連れが、静かで薄暗い廊下の先に消えて行くのを目撃した。おそらく三階の奥にある劇場「あしびなー」の方に歩いて行くのだろうが、暗い廊下に消えていく様子が奇妙で、まるでキリコの絵画を見ているようだった。

ここまで突き抜けていると、気持ちいいもんだなと気づかせる妙な空間だった。そんなに長持ちするはずがないから、実は今しか見られない幻の建物なのかもしれない。

おそらく持ち主すら幻なのだろう。

市は管理はしているけれど、責任者はいない。いや、もちろんいるはずだけれども、それを自覚している人はたぶんいないんだと思う。持ち主がいないから、今の今まで存在している。

幻。

また行きたい。