院試の受験票を無くした話

お久しぶりです?
溜まりに溜まったネタをどんどん大放出ですよ。今回は8月2日のお話です。
八月二日午後一時、院試の口頭試問予行演習開始時間二時間前。俺は絶望的な気分にかられていた。部屋中、至る所をひっくり返しても、出てこないのだ、アレが・・・。
院試の受験票が・・・!!!


なんで!?
なんで無いの!?
なんでなんでないの!!?
家から持ち出した覚えは無い。かといって、他に閉まった場所は思い当たらない。なんで無いの?全くの謎。
と、言いたいところだが、実は心当たりがあった。
それはここ数週間の俺の行動。あの『さまよう・・』のちょっと前あたりから、俺の行動は極度に注意散漫になっていた。何をやってもドジな失敗をするのだ。いや、もちろん普段から失敗はするよ。でも、この時期は頻度が桁外れに違った。それに加えて細かい不運も重なった。
心身ともにうんざりだったこの時期を、俺はあるノンフィクションから拝借して『混乱の時期』と名付けていた。
で。その混乱の時期の真っただ中に、サークルのあゆちゃんが作品を撮影しに来たわけですよ。当然先輩として汚い部屋は見せられないわけですよ。大急ぎで片付けるわけですよ。
すると、当然、散らかっていた服は洗濯機に突っ込んで、本は棚に押し込み、紙くずはゴミ袋にダンク。蒲団もロフトに押し込んで、床に掃除機をかけまくった。かくして俺の即席きれいな部屋が完成したわけです。
はい、ここでプレーバック。
紙くずをゴミ袋に突っ込んだと言いました。ここで問題なのは紙くず。それにはチラシ類の他にダイレクトメールも含まれているわけです。ダイレクトメールは封筒に入っています。
そして、肝心の受験票なんですが、それも封筒に入って送られてきたわけなんですよね。
え?・・ということは、つまり?
しかし、俺は11時ごろからこの部屋で本から棚から何から何までを探しまくっているのにも関わらず出てこないってことは、この家にある可能性は完璧に低い。
うそーー!!
受験票を捨てるなんて、どういう気違いだよ!!狂気の沙汰もいいとこだよ!!!
俺は絶望感で目の前が真っ暗になり倒れそうになってしまった。そして、このまま俺一人ではネガティブになりすぎて探し続けられないと思われた。これは・・もう助っ人を呼ぶしかあるまい!
一時半、ゆやまんがやってきた。ゆやまんは、こういうときかなり的確に論理的な思考が働くうえに、これまでの人生でものを無くした記憶がほとんどないという、俺とはベクトル的に対極に位置する人種。そんな奴が味方とくりゃあ、まさに鬼に金棒、百人力だぜ!
ゆやまん「この辺一帯は調べたんだよね。じゃあここ探すしかあるまい」
俺「はい・・」
黙々と探す。おお・・なんかゆやまんが指示を出すだけで、奴(受験票)を追いつめてる感がするぜ!!
黙々と辺りをあさぐる俺ら。そのまま二時を回り、ゆやまんがおもむろに口を開いた。
ゆやまん「この部屋には、受験票はもうありません。」
なにーーー!!!
まじどうしよう、こんなことで、来年を棒に振ったらしゃれならないんだけど・・!!
こうなれば・・・、もう再発行してもらうしか手はあるまい!
俺らは急いで家を飛び出ると、チャリに飛び乗り学校に向かった。もう面接の予行演習まで一時間を切っていた。
しかし、頭をよぎるのは不安ばかり。果たして、受験票なんて代物を、再発行なんてしてくれるのだろうか?これが大学受験受験だったら完全にデッド。再発行してもらえるわけが無い。
それでゆやまんとチャリこぎながら話し合った結果、もし発行拒否されることがあった時のために、もっともらしい不慮の事故を考えて、相手の情に訴える作戦に出ようという結論に達した。
しかし、気が動転している俺とってすぐにいい言い訳が思いつくはずが無かった。受験票を再発行してもらうぐらいなのだから、少し破れましたって程度の事故じゃ全然いいわけにならないだろう。第一受験票は車にひかれたぐらいでは破れないだろうし、考えれば考えるほど事故に遭いにくいもののように思われた。
だから、言い訳自体、波にさらわれただの、火事で燃えてしまっただの、へんちくりんなことしか思い浮かばなかった。これはまずい。
ゆやまん「だったらさあ、いっそのこと“不慮の事故”って言い切っちゃったら?もし発行してもらえるのなら、たぶん事故の原因なんていちいち聞いてこないんじゃない?」
それもそうだ!!ゆやまん頭いいぜ!!!
俺らは大学内の自然科学棟にチャリを止め、急いで受付カウンターに向かった。対応に出てきたのは、疑い深そうな、やせた中年のおばちゃんだった。
俺「す、すいません。あの、院試の受験票再発行してもらってもいいですか?ちょっと“不慮の事故”で失ってしまいまして。」
すると、おばちゃんはいきなり笑い出した。
おばちゃん「ええ?“不慮の事故”っていったい何があったの?」
し、しまったーー!!
“不慮の事故”という含みを持たせた表現を使ったせいで、逆に相手の興味を引いてしまったのだ。なんてことだ!
予想外の事態に戸惑った俺は、ちらっとゆやまんをみた。奴はあさっての方向を見て、こっちの異常事態はどこ吹く風と言った感じだった。あ、あいつ・・・
俺「え、え?っとですね・・」
俺は必死で頭を振る絞ったがなかなか出てこない。おばちゃんは疑惑の目を容赦なく俺に向ける。口からでまかせを言って、理由を絞り出す時間を稼がなければ!
俺「大変言いにくいことなのですが・・」
おばさん「いいにくいこと?」
俺「はい」
何『はい』とか言ってんだよ!!余計首閉めちまっただろ!!“不慮の事故”で、かつ“言いにくいこと”って条件が二つに増えちまっただろ!!!
俺はこの時点で半ばあきらめの境地に達していた。もう、全部嘘ですと言っちゃおう。俺が捨てしまったせいで、今頃千葉のゴミ処理場で灰になってるってちゃんと伝えよう・・。
そのときだった。
俺は急に自分の心が静かになるのに気がついた。とつぜん、静寂と化したのだ。これは、なにか出る前触れだ・・・。俺はそこに意識を集中させた。
すると、なんと口が勝手に動いたのだ。
俺「じつは・・受験票は、うんこまみれになってしまいまして・・」
なんじゃそりゃ!!いや、しかし、もうこれに続けるしかない!!!
すると、俺の脳内に怒濤のように筋書きが浮かんできた!!
おばちゃん「え・・?なんですって?」
俺「実はこの後すぐ予行演習があるんですよ。それで大慌てでトイレに駆け込んだんですが・・
おばちゃん「・・・・・」
俺「それがなんとぼくの苦手な和式で・・そこで、受験票の奴が、こう・・ポチャリと・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミッション・コンプリート。
こうして、無事再発行してもらうことができましたとさ。