空港の夜

俺は正直四月五月は自分なりにがんばったと思う。でもその代償で、慢性的に疲れが取れなくて、ぜんぜん眠れなくなってしまった。
でも、将来就職することを考えると、たった二ヶ月がんばっただけで根をあげるようじゃ俺もおしまいだなーと思い、我慢していた。しかし、さすがに誰かが楽しそうに笑いながら話しているのを聞いているだけでむしょうに腹が立つぐらいにまでストレスがたまってしまうと、これではヤバいと思い始めた。
そこで、気分転換もかねて、手元にあるバイトで稼いだお金で残っているものを全部かき集めて、沖縄に帰ることにした。 


最初この計画を思いついたとき俺は胸が躍った。どうせ沖縄にいられる時間は三日ぐらいしかないだろう。だったら思いっきりくつろいで、遊ぼう。そうだ、帰るときもただ空港に行って飛行機に乗るだけじゃつまらない。空港で一泊しよう。俺は高校二年のとき、飛行機を逃して実際羽田空港で泊まったことがあった。
昨日も日夕苑調査で疲れ果てていた俺は、羽田行きの最終電車がなくなる22時ぎりぎりまで研究室でだらだらし、寝袋とノーパソと一冊の本を抱えて総武線に飛び乗った。飛行機は明日の朝6時40分発。
午後23時59分、モノレールの終電で羽田空港第二ターミナルに到着した。もちろんモノレールには誰も乗っておらず、まさに俺一人の貸し切り状態。テンションがあがりまくりである。
空港内は最近できたばかりということもあって、床も壁も非常に磨かれており、てかてか輝いていた。俺は自分の足音をコツーーンコツーーンとわざと強調して歩いていたら、急に視線を感じた。
後ろを振り返ると、警備員三名が不審そうに俺を観ているのに気がついた。
でも、だいたい不審そうに観られていると感じること自体被害妄想の現れだと考えている俺としては、そんなことを気にも留めず、改札を出て、夜の空港内を散策開始。
すると、俺は次に警備員の他に清掃業者の姿を見つけたが、彼も俺のところを見つめていることに気がついた。
それどころではない。他に左前方にいる女性職員も俺を観ている。みんなこっちを見ている気がする。
え?なんか俺空気読めないことしてる?夜の空港って泊まれるんじゃなかったっけ?いや、でもエスカレーターがまだ動いているってことは、まだ中に入ってもいいってことだよな。
なんか梅図かずおのまんがに出てくる、怪しい村人たちみたいだなーと思っていると、エスカレーターを上ったときに、ついに一人の若い醤油顔の警備員に呼び止められた。
警備員「今からどこかに行かれるのですか?」
明らかに俺がうざそうである。何だこいつ空気読んでさっさと帰れよ、と、言いたげである。
でも、俺は、これはただ単に俺がそう思ってるんだと予想しているだけで、本当はあちらで眠れますよ、とか、そんなことを言いにきたんじゃないだろうか?と無理矢理プラスに考えた。
俺「いいえ、今眠る場所を探しているんです」
するとたちまち、本館は閉店です、速やかに出て行ってください的なことを言われて追い出されてしまった。
うひょーー!!!路頭に迷ってしまった!!
そうなんだよ、微妙に警備員がつけていた、『特別警備体制』の腕章が気になっていたんだよ。あの9・11の事件以降、世界は少しかわってしまったんだよ・・。
俺は寝袋を抱えてとぼとぼと空港前を歩いた。しばらく歩くと立体交差点があり、その隅に芝生が生えている場所があった。
そこに寝袋をしき、バイト代で親に前借りで買ったノーパソを袋で覆って、ゴロンと横になった。
野宿は三年前のヒッチハイク旅行以降たびたび経験していたけど、一人で、しかも貴重品を抱えての野宿は今回が初めてだった。正直浮浪者や若くて乱暴な方々が現れたりしないか、若干不安だった。
でも、同時に少し休息が得られたことに喜びを改めて感じた。今年はこれから。
そう、これからなのだ。

↑野宿記念写真。緑色の布が寝袋