新聞勧誘

1.

いまでこそ年齢が1つ2つ違っても大した差はないってのは当然理解しているけれど、大学入りたてはそうでもなかった気がする。それまでは年齢の差=学年の差だった。だから浪人して大学に入って、年下が同じ学年にいるって感覚がちょっとおもしろかったし、変なプライドも出てきた。そのせいで結構恥もかいた。

 

2.

僕は千葉に出てくるまで新聞勧誘なるものに出くわしたことがなかった。
大学一年のとき、近所に年齢は一つ下だけど同じ学年の友人がいた。よく彼の家で、学校やサークル、映画の話をしていた。
ある夜、おしゃべりをしてるとドアベルが鳴った。それは新聞勧誘だった。

友人がその対応に出た。彼の家は玄関のとなりに四角い引き窓がついていて、そこから対応していた。だから玄関は全く開けていなかったが、外の訪問者と話をすることができた。その新聞勧誘は中年の細身のおじさんだった。

新聞勧誘のおじさんは優しい声で「なあ、いいだろう?3ヶ月ぐらいお願いだよ」としつこくせがむ。

それに対して、友人は、「いや、その予定はないですし…..まあ…そうなんですけどね….」と結構丁寧に対応してる。この時は、こういうのを丁寧に対応するヤツだったんだな〜ってぼんやり思って待っていた。ところが、5分たっても戻ってこない。まだ延々と話をしている。

だいたい、勧誘のおじさんは家の中に入っているわけでもないし、いりませんと言って窓を閉めればいいだけなんじゃないのと、だんだんイライラしてきた。すると、不思議な事に変なプライドが頭をもたげてくる。
多分彼はまだこういう訪問販売を断るのに慣れていないんだろう。彼は優しすぎるのだ。ここは一つ、年上であるオレがオトナの断り方というものを見せてやろうじゃないか、と思った。

 

それで、友人に加勢しようと、玄関に向かい、新聞勧誘に声が聞こえるように彼に後ろから声をかけた。

「別に新聞要らないんだったら、スパっと断ったら?」

こんなかんじで言ったら、相手の勧誘する情熱も萎えるだろうと思った。

 

ところが。新聞勧誘のおじさんが、急にドスの聞いた声で文句を言ってきた。

「なんだてめぇ、営業妨害するつもりか、ええ?」

 

・・・・・・・・・・・

 

あまりの声色の変化に驚いてしまった。まるで映画の中のヤクザのような声だ。

「なめてんのか、てめえ、上等だ、出てこいよコラぁ!」

その時、窓越しにおじさんと目があってしまった。見たこともないような恐ろしい形相で僕を睨んでいた。このあまりの豹変ぶりに、僕は完全に「聞いてないよ」状態になって、石のように固まってしまった。足は震えるし、言葉も出ない。

すると、アパートの大家さんが出てきて、どうしたんですか?と新聞勧誘に声をかけた。彼はこの部屋のやつ舐めてるだろとか文句を言い出した。そのすきに友人が「奥の部屋に行っていていいよ」と行ったので、僕はすかさず和室に戻り、ふすまを閉めて、クッションを抱きしめて、ボー然としてた。新聞勧誘に、精神的ダメージを与えようとしたのに、逆にものすごいカウンターパンチを食らってしまった。テンプルに入って脳が揺れたような感じだった。

しばらくして友人が部屋に戻ってきて、新聞勧誘は気をつけないとだめだよ、と言われた。

「特に〇〇新聞はヤクザみたいだってことで有名でしょう、オトナの対応をしなくちゃね」

 

さらに強烈なアッパーカット。

いろんなところで大ダメージ。

 

ということで、今週もよろしくお願い致します。
変なプライドを持たず、毎日謙虚にすごしていきたいところです。
ここに来てくれた皆様もいい一週間になりますように。