濡れたお札は自販機に入れちゃいけない

高校の時、宜野湾市にあるライブハウスで、うちの高校の内輪向けのライブがあった。ライブはすべてコピーバンドだったけれど、ミッシェルガンエレファントだったり山嵐だったり、ハイスタンダードだったりと、ものすごいノリのいい曲ばかりで、客席の前方はモッシュが半端無くて、何度か酸欠で頭がくらくらになった。

ライブが終わった頃には全身汗でびっしょりで、上着を脱いだらぞうきんのようにしぼることができるほどだった。気がつけば、のどがカラカラだった。どうしても水が飲みたかった。

ポケットには、確か所持金が千円札が一枚あるはずだった。これは、那覇市までのバス代も含まれていた。適当に自動販売機を見つけて、ポケットからお札を取り出した。

ところが、お札が汗でびっしょり濡れていた。まるで水槽に落としたかのように、紙の繊維にたっぷり汗がしみ込んでいたのだ。

こんなに濡れたお札を自動販売機に入れても大丈夫なんだろうかとちょっと疑問に思ったが、そんな疑いなど軽く吹き飛んでしまうぐらいのどが乾いて死にそうだった。その日は10月頃だったかと思うんだけど、外も熱くて何が何でも水をのどに流し込みたかった。そこでお札を自動販売機にねじ込んだ。シュルシュルと細長いスリットに飲み込まれていく。

すると、半分ほどお札が入ったところで、ピタっと止まってしまった。どうしたんだろと思ってじっとしていたが、うんともすんともいわない。それで、引っ張ってみたら、ビクともしない。

 

と、とまってしまった。。

 

機械が異物に反応したのだろうか?それとも汗で濡れてショートでもしたのだろうか?いずれにしても、お札が濡れていたのが原因のなのかもしれない。ちゃんと乾かしておけばよかったと後悔した。

自販機の会社に電話すればいいんだろうか。自販機の下の部分には電話番号が書かれていた。でも、僕はまだケータイ電話を持っていなかったので電話するためには公衆電話を探す必要がある。でも僕には小銭が無いので無理だと思い直した。あるいはライブハウスに戻って電話を借りても良かったが、そうすると業者の人が来るまでにどれぐらいかかるのか見当もつかなかった。正直、待っている間に喉が干からびてしまうように思われた。

そこで、お札の自販機から半分飛び出ている部分を乾かすことにした。近くにあった板で自販機に向かってパタパタあおいだ。苦労の甲斐あって、10分ほどでようやく外に飛び出ている部分は乾いてきた。ところが、お札はまだ微動だにしない。機械の中に入っている部分がまだ濡れているようだ。

これはさすがにどうしようもなかった。お札を入れる隙間に息を吹きかけてみたけれど、それに意味があるとは全く思えなかった。

その頃には、もう、なんでもいいから飲みたくて飲みたくて、目眩までするようになっていた。目の前にキンキンに冷えた飲み物があるのにそれを手に入れられないもどかしさ。それがいっそう乾きを感じさせた。のどを引っ掻きたい気分になった。

それで、やけくそになってお札を引っ張った。

すると、、、ちょっとだけ動いた。

おお!これはいける!!

それで、少しずつ力を加えて、お札を引っ張った。

 

あっさり破れた。

 

お札の真ん中に入っていた折り目から、スパッとまっ二つ。残り半分は自動販売機に取り残された。手元に残ったのは、夏目漱石がこっちを見ている部分。

 

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結局、近くを通りかかった、全く違うクラスのほとんど喋ったこと無い方に、お札が真っ二つになったことを話してお金を借りました。

その人とはめでたくお友達になれました。