小学校の時、ちゃんとしたエアガンがどうしても欲しかった。近所の中学生にちゃんとしたエアガンを見せてもらって以降、喉から手が出るほど欲しかった。それで親に買って買ってとせがみ、小学校の後半でようやく手に入れることができた。それはプラスチック製だけどずっしり重く、表面がマットな質感で、以前持っていた安物の玩具よりも断然高級感が漂っていた。僕はそれも持って物凄く興奮した。
それで、それを近所の友達に見せに行った。すると、友人も興奮して貸して貸してと言ってきた。彼は近所で一番ケンカが強く頼りになるやつだったから、彼が興奮しているのをみて僕も嬉しくなって、すぐに手渡した。
二人で近所の公園に行き、遠くに木の枝を地面に立てて、それから離れたところに地面に線を引いた。ここからあれを狙おう、という話になった。
僕は狙いを済まして引き金を引いたが、全然当たらなかった。ところが友人が撃つと、一発で枝がポキっと折れた。
すると、オレが当たったから、今日はオレがこれを使おうな、と言い出した。
初めは意味が分からなかったけど、そのあと彼が持っていた安いおもちゃの銃を渡されてこれを使えと言われ、そりゃ無いよ、と文句を言った。でも、彼は近所で一番喧嘩が強かったので、そこは従うしか無い。
ひと通り遊んだ後に返されたけど、僕はすごく面白くなかった。そこで、空気銃を練習して見返してやろうと思い立った。
家の中で、棒や鉛筆を立ててそれに当てたり、木の葉っぱを狙ったりして、射撃の練習をした。みるまみるまに上達して、静止しているものなら、遠くからでも大抵当てられるようになった。
ある日、また友人と公園に行った時、エアガンを貸してと言われた。でもまた黙って貸すのは嫌だったので、射撃の腕勝負しようぜと言った。普段彼に勝負を挑むことなんかほとんどないので、彼は珍しがって、いいぜといった。
また前のように木の枝を立てて、離れた場所の地面に線を引き、そこから枝を狙った。一撃目、俺から。普段家で打ちまくっていたので、簡単に枝に当てることができた。次に友人。狙いをすまして、引き金を引く。が、枝に当たらなかった。ところが、彼は当たった、当たった、と言い出した。
「え、あったってないじゃん、めっちゃ外れてただろ」
「今かすっただろ、かすったらありだろ」
全然納得いかなかったけれど、仕方なくそのまま俺が引き金を引いた。今度は木の枝の先端が折れた。次に友人の番。今度は大きく外れて、後ろの土が舞った。
すると、今度も友人は的に当たったと言い張った。ぶつかって、そして跳ね返って土に当たったと言って聞かないのだ。もちろんそんなはずは無いのは誰の目に見ても明らかなはずだった。
僕は腹が立った。でも喧嘩したら絶対に負ける。それで、有無を言わさず当たったかハッキリわかるものに変えればいいと思い至った。どうせならば的は当てるのが難しいものがいい。例えば動くものとか。。
「じゃあ蝉を狙おうぜ」
公園にはガジュマルの木が一本立っていたんだけど、そこにはクマゼミがうるさく鳴いていた。それを狙って当てよう、と提案した。
じゃあ、お前からやれよ、と言われた。そこで、木の幹の所に止まっているクマゼミに狙いを定めた。引き金を引く。命中した。会心の一撃だった、セミはものすごい絶叫をあげポトッと落ちた。ところが、、
いつまで経っても、ものすごい悲鳴が途切れない。そして、よく見ると、背中が派手に陥没していた。固い表面を突き破り、肉がむき出しになって、クレーターの様に凹んでいた。足をうねうねと動かし、悲鳴を上げ、苦しい、苦しいと、羽をばたつかせている。
これが断末魔の叫びというやつか、、さすがに僕も友人も青ざめた。もはや銃の腕を競う気も吹っ飛んでいた。むしろドン引きしていた。
すると友人が、オレ帰るわ、と言って歩き出した。気分悪くなったから家で水を飲んでくる、と言っていた。
え、これどうするの?ええ??僕は何をすればいいのかわからなくなって、ただ友人ともがき苦しむセミとを行ったり来たりして呆然となった。
それからはほとんど空気銃は触っていない。