七面鳥を見た

小学生の時、住んでいた家の近所に「豚小屋」があった。それはトタン屋根の小さな小屋がたくさん密集してできた養豚施設なんだけど、各小屋に豚の入った檻があり、豚の他にもヤギが飼われている小屋もあった。なかにはすでに使われず、廃屋みたいになっている小屋もあった。

ずっと前からあるからか、どの屋根も錆び付いてぼろぼろで、壁はシミだらけ。いくつかの小屋からは低い煙突が出ているんだけど、そこから出る煙はとても生臭く、「豚小屋」周辺は常に悪臭が漂っていた。まるで途上国のそれみたいで、写真で見せられると、とても経済大国にある施設とは思えないほどだった。

夏のある日、僕はこの「豚小屋」の真ん中を突っ切る道を通って学校から帰っていた。道の両脇に建つ「豚小屋」の悪臭がすごいので、ここを通るときはいつも息を止めて一気に駆け抜ける。ところが、この日は道の真ん中で足を止めてしまった。

道の真ん中に七面鳥がいたのだ。

高さが5、60センチぐらいある、丸々太った鳥だ。それまで肉を食べたり、テレビで映像を見たことはあったけれど、本物を見たのは初めてだった。それが普通に道を歩いているのだ。でも、もちろん沖縄に野生の七面鳥がいるはずが無い。

七面鳥は急に足を速めて道路わきにある豚小屋に入って行った。そこはすでに使われていなくて、数ある小屋の中でも特に廃屋のようにぼろぼろになった小屋だった。僕も鳥を追って中に入ってみた。

そこは壁もぼろぼろで、大きな穴があいており、隣の小屋につながっていた。でもその小屋も廃屋だった。ところどころ草も生えていて、天井から光が漏れていた。床には空き缶やら、タバコの吸い殻が転がっていた。

そして、その中に七面鳥がいた。しかも2羽もいた。それが、今は使われていない豚の檻の中を出たり入ったりしていたのだ。正直誰かがここに放したとは思えなかった。どこかから脱走してこの小屋の中に入ってきたのかもしれない。僕はこの光景を、当時仲良かった友人に見せたくて、慌てて小屋を飛び出した。

友人は、小学校のサッカークラブに向かうところだった。

時間がないと言っていたが、そこを無理矢理お願いして、ぜひ見に来てほしい、七面鳥がいるんだ、と訴えた。友人は七面鳥がどんな鳥なのか全然知らなかったし、鳥に対しての興味など全く持っていなかった。でも、とんでもない鳥なんだ、怪物みたいな馬鹿デカさなんだ、しかも丸焼きにすると美味いんだ、などと訴えると、じゃあ、どうせ学校に行く途中だから行ってみようじゃないか、ということになった。10分後には例の小屋の前に立っていた。中に入る。

ところが、今度は七面鳥の姿が無く、しかも、なんか煙たかった。

そして、横を見ると、ちょうど小屋の外からは見えない入り口の隅に、自分と同学年の男の子がいた。そいつは、小学校で一番恐ろしい「不良のたまご」だった。彼は嫌いな子を容赦なく殴り、先生にも反抗的な態度を取っているということで、同学年でも周りから恐れられていた。それが、ぽかーんとした顔で僕らを見ている。手にはタバコが。。こいつはタバコをすうためにわざわざこんな臭いところで隠れていたのか!

「おまえらなにやってる」

僕らはここで七面鳥を見た、それを探しに来た、と伝えた。ところが彼は、ここでそんな鳥は見なかった、と答えた。それより、俺がタバコすっているのを誰かにチクったら、お前の首ちょん切るからな、と言った。僕らは青ざめた。特に友人はサッカーに行く途中だっただけに、恨みの目を持って僕を見ていた。

「おまえら、金もってるか?」

僕は持っていなかった。ところが、七面鳥を捕まえて売れば、お金が手に入るとホラふいてみたところ、ちょっとだけ反応があった。そのとき、コイツに七面鳥探しをやらせて、そのスキに逃げればいいんじゃないのかと閃いた。そこで、僕ら二人はその七面鳥を売ってお小遣いを手に入れるつもりだった、だから探しに来たのだ、と伝えた。

「じゃあ、探すの手伝うからお前が売れな、お金は俺がもらうからな」

一か八かだったけど、いいよ、と適当に答えた。するとその鳥どこにいた?と聞いて来た。

たしか、奥の方、、と答えると、そいつはタバコを踏みつぶして、奥の方に歩いて行った。

 

もしかして、このスキに、、、と思って僕は隣を見た。

友人の姿が消えていた。。

慌てて小屋から出ると、走って逃げる友人が見えた。「お前も逃げろ!」と叫んでる。そんな大声でバラしたら、僕は足遅いから、捕まって殺される!

すると、恐ろしい声が小屋の中から響いて来た。

「お前、逃げんのか!!」

「ちがう!七面鳥がいた!!」

「えっ、まじで!どこ!?」

そいつが恐ろしい形相で、小屋から出てきた。

僕はとっさに、逃げて行く友人の行く先を指した。

「ほら、あそこ!今あいつが追いかけている!」

「まじか、ちょっと待て!」

そいつは友人のあとを恐ろしいスピードで追いかけだした。

僕はそれを見て、反対方向に走り出した。

 

大丈夫、友人はサッカーで足を鍛えているから、多分あいつには追いつかれないだろう。

たぶん。。

 

結局それ以来、七面鳥を見ることはなかった。そして、このことを言っても、誰にも信じてもらえない。

 

ということで、今週もよろしくお願いします。

いい一週間になりますように!