蜂が部屋に迷い込んできた時の話

一昨日、データ提出に追われて焦りながら作業していた時に、部屋に蜂が入り込んできた。

それは大きめのアシナガバチだった。机の横をかすめ、ベランダの網戸にピタっと止まった。おそらく風通しを良くするために開けていた玄関から入ってきたのだろう。気がついたらすでに僕は玄関から外に逃げ出していた。

僕は蜂がものすごい苦手だ。この世で一番苦手かもしれない。幼い時に頭のてっぺんを刺され、小学校の時に顔面を三箇所一気に刺された。さらに中学では屋外プールに飛び込む時に蜂を踏んづけて、つちふまずを刺された。

当たり前だけど、蜂に刺されたら猛烈に痛い。何度も刺されてもピンピンしてるからアナフィラキシーショックとか嘘だろと思ってるけど、ただ刺された時の強烈な痛みだけで十分にトラウマになる。

でも、アレをそのまま家の中に入れているわけにはいかない。殺虫スプレーといったたぐいは家に置いていなかったので、玄関先にあるほうきを手に取り、蜂を撃退することにした。

ベランダの近くには畳んだ布団、本などがあるんだけど、肝心の蜂の姿が見えなくなっていた。どこから蜂が急に飛び出してくるのか分からなかったので、下手にそのあたりを引っ掻き回す気にもなれなかった。網戸は閉まったままだったが、それを開けるのも怖かった。行動を起こすのは敵の位置を確認した後がいいと思えた。

でも、だからといって蜂をずっと待っているわけにもいかなかった。本当は一刻も早く作業を終わらせデータを送りたかった。でも無防備で作業するのも危険だ。

だから、仕方なく「かっぱ」をつけることにした。雨の日に着るあの「かっぱ」だ。かっぱなら頭も含めて体の殆どを守れる。夏の真っ昼間に着るカッパは非常に暑かったが、蜂の恐怖に比べればマシだと思った。

とその時、ブブンと羽の音がした。ベランダを見たら、網戸の内側に蜂が引っ付いていた。

うおおお!キタ!!

急いでほうきを抱え網戸に駆け寄る。網戸にひっついているので叩き潰すわけにはいかなかった。そこで、ほうきの棒の先を網戸の縁に引っ掛けて、勢い良く引いた。これで蜂が出ていけるはずだ。

ところが、今度は網戸と引き戸の間に入ってしまった。ハチは何度も飛び立とうとしたが、隙間が狭すぎて思うように飛べず、結局網戸にしがみついていた。

このままだと、また網戸を引いたら家の中に入ってくるかもしれない。それで一瞬どうしようと迷ったが、次の瞬間ひらめいた。このままハチを隙間に閉じ込めてしまえばいいんだ。

僕はガムテープを持ってきて、網戸とガラス戸の隙間にテープを貼った。
まず蜂が飛んできそうな高さの部分をガムテープでとめた。次に、上の部分の隙間を入念に埋めた。

その頃僕は、完全にハチに対して殺意を抱いていた。ガムテープを貼る入念さはその現れだ。この狭い隙間に閉じ込めて、確実にお前をコロス。じっくり太陽に焼かれな。。
蜂の退路を一つ一つ断っていくのは快感だった。

最後に下の部分の隙間をとめにかかっている時だった。突然、ハチがガムテープで塞がれた部分をめがけて突進してきた。僕は驚いて思わずのけぞった。ハチは、ガムテープにぶつかった。すると、なんとガムテープにくっついてしまった。もがいてももがいても取れない。まるでハエ取りにくっついたハエみたいだ。自ら墓穴を掘ってしまった。

勝った!バカめ!!

僕は一仕事を終えた充実感を感じながら、かっぱを脱ぎ始めた。

その時だった。ハチがガムテープから剥がれ、ポテっと下に落ちた。

そこは、ちょうど、さっき塞ごうとしていた隙間の目の前だった。下の部分はまだとめてなかったのだ。

ハチは起き上がると、そこを普通にヒョコヒョコ歩いて隙間から出てきた。そして、羽を伸ばし、一直線に外に向かって飛んでいった。

 

・・・・・

 

なんかよくわからない気持ちになったけど、どう表現したらいいかわからず、そっとかっぱを衣物かけにかけた。