フルスイングおじさん

うちの近所の公園には、朝、変な人が多い。この間、早朝に公園を散歩していたら、エメラルドグリーンのシャツに、ものすごいビビッドな紫色のズボンをはいたおじさんが何度もゴルフクラブを素振りしていた。

僕は、遠くからこのおじさんの服装と持ち物を視認した時点で、おかしな人がいると分かったので、歩くスピードを落として観察することにした。

 

この中年はひとしきりゴルフのスイングをした後、おもむろにポケットから卓球の球を取り出し、地面においた。そう、卓球の球だ。ゴルフボールではなく。おじさんはゴルフクラブを振りかぶり、卓球の球をめがけて一気にフルスイングした。

ところが、卓球の球が軽すぎてゴルフクラブがぶつかる前に風で移動してしまうのか、うまくミートせず、変な方向にフワァッと飛んでいった。そして、これがまるでハエの飛行軌跡だったので思わず吹き出しそうになった。ある意味衝撃的だった。フワッと舞い上がり、草むらにポテっと落ちる。なんとも貧弱な軌跡だ。というか、フルスイングしてなんでそんなに弱々しい飛び方をするのか謎だった。むしろそれは、なんらかの特殊能力のように思えた。ものすごい衝撃を、貧弱な力に変える力だ。

するとおじいさんは、チッと舌打ちしてブツブツ言いながら、また別の卓球の球を取り出して地面に置き、思いっきりフルスイングした。それでも球は、フワァっと力のない軌道を描いて生け垣に落ちた。

じいさんはまたポケットから別の玉を取り出し、フルスイングした。そのたびに、おかしくて笑いを堪えるのが大変だった。

 

それで、ひとしきりうち終わり、汗が出まくったらしく、肩にかけていたタオルでひたすら額を拭いだす。そして、ゴルフクラブを肩に担ぎ、早歩きでかえっていった。卓球の玉は回収されず、草むらに放置されたままになっていた。打ちっぱなしかよ。

 

というわけで、卓球をしたい時たまがなかったら、うちの公園を探せば見つかるかもです。