ニャンコの話



我が家では、ニャンコという名の猫をかっている。ちなみにオスだ。
真夜中に俺が一人テレビを見ていると、突然引き戸をガリガリ引っかく音がする。ニャンコが外から帰ってきたのだ。
俺が引き戸を開けてやると、彼は俺のすねをこすりながら家の奥に入っていく。「俺について来い」と言っているのだ。
俺はしぶしぶ猫にエスコートされて台所に向かう。そこにはニャンコの餌のトレーがおいてある。
ニャンコはそのトレーの横に座り、今か今かと俺を見上げる。
俺は何もしない。
すると、今度はかわいこぶったような、哀願の声を出す。
俺は何もしない。
しばらくそうやって鳴くが、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、いきなり引っかいてきたり、声を荒げたりする。もちろん俺はそれをよける。
俺「よしよし、わかったよ」
しかし、どS的行動ですっかり気分よくなって再びテレビを見ていると、今度は、飯を食べ終えたニャンコがやってきて、また「俺について来い」と言う。
俺はめんどくさいのでシカトしていると、怒っていきなり引っかいて来る。
俺「わかった!!参った!!ごめんよ」
で、しぶしぶ玄関までニャンコについていき、外に出してあげるのである。毎晩これが続く。
俺はときどき、我が家がニャンコを飼っているのか、逆にニャンコに利用されているのかわからなくなってしまうことがある。
ニャンコは昼間はたいてい家で寝てるか、外で遊んでいる。夜は台風でもない限り遊びに行く。夜の帝王である。
そして、彼の行動範囲は飼い主の俺らですらわからない。かなり遠くに行っている事もあるようだ。
ほとんど放し飼い。まさに自由。人間では手にできないレベルの、完全な時間を手にいれて生活をしていると言っていいだろう。自由人、ニャンコ。昼間は日向で寝て、夜は草木のにおいを嗅ぎながら、勝手気ままに行動する。
しかし、彼には最大の弱点がある。子供を作ることができないのだ。彼は去勢されてしまった。
子供を作ることができなくなってしまった動物ってどういう気分なんだろう。
ニャンコは時々別の猫たちと一緒のときがある。あるときは他の猫に圧倒されたのか、ショックを受けていることがある。たいてい猫の争う声が聞こえるので、おそらくニャンコは敗北したのだろう。もし本当にニャンコが敗北感をうけているのだとしたら、そのしぐさはめちゃくちゃ人間にそっくりだと思う。
で、あるときフと思った。もし、その喧嘩の原因が、ニャンコのオスとしての機能を果たさないことにあるのだとしたら・・・?
だいたい、猫って子供を作るとき以外、他の猫と一緒にいることってあるのだろうか・・?俺は猫については詳しくないが、だいたい猫が群れるは子供を作るときか、子育てのとき以外見たことが無い気がする。孤独でロンリー、それが俺の猫のイメージだ。
そんなニャンコが、発情したメス猫と一緒になって、「お前去勢されただろ」って指摘されたら・・?
こんなショックはない。
生殖目的もなく、家の外や中でだらだらしているニャンコ・・・。彼にとって、この有り余る時間と暇は一体なんなんだろう。
そんなニャンコに、お前の生きる目的は何かと聞いてみた。
ニャンコはぴくりとも動かずにシカトした。
俺「おい、お前の生きる目的はなんだって聞いているんだけど」
ニャンコは向こうを向いたまま、右耳だけをこちらに向けた。
なんか遠くで変なやつが変なこと言ってるぜ・・・とでも思っているんだろうか。
本人は何にも考えてないのかもしれないと思った。