ウンケイの夜

朝起きたら10時になっていた。外は灼熱の沖縄の太陽が照り付けている。
今日早くも二個下の弟の将吾が茨城に帰るっていうので、久しぶりに車を運転して弟を空港に送りに行った。
しかし、弟と一日しかあえないなんてね?。
久しぶりに会った将吾はマジでマッチョになっていた。茨城大でハンドボールのレギュラーをやっているからなんだけど、何だその丸太のような腕は!幼い顔してるくせに、ケンカでもしようものなら、間違いなく速攻で首の骨を折られて殺されてしまう!
空港に行く途中、俺たちは母方のじいちゃんち(去年ズンとザッキーが泊まった家)の仏壇に線香を上げに行った。
今日はウンケイ(お迎え)の日。
沖縄では、盆は旧暦の七月十三日から十五日にかけて行われる。今年はそれが八月の十七日から十九日にあたる。
この三日間、沖縄では、エイサーや道ジュネーなどさまざまな行事が行われる。また、いろんなところに親戚めぐりもしなければならない。那覇の公設市場ではさまざまな豚肉を買いに客がごった返し、多くの人が車で出かけるので道は激しく渋滞する。
じいちゃんちには、すでに伯母二人と従妹のありさが今夜の行事の支度をはじめていた。
その後俺は空港に弟を送った後、親と一緒に車の練習。そして日が傾き出したころ、再びじいちゃんちに向かった。
遠くで巨大な入道雲が夕日に輝いていた。その入道雲の上の部分は霧のようになっており、藤のつるのように地面に向かって垂れ下がっている。向こうでは雨が降っているのだ。
じいちゃんちにつくと、従妹たちが出迎えてくれた。ありさは都内の大学の一年生。その妹ミサキはヤンキーみたいなやつで、今度高校受験を向かえる。ほかにも今年度琉球大学を受ける雄介とか、その弟とかもいるんだけど、今日は全員はそろわないようだ。
ウンケイの儀式が始まった。
ウンケイは先祖をお迎えするという意味。まずろうそくを二本つけ、玄関の前におき、家中の電気を消す。
そして、玄関からトートーメー(仏壇)まで先祖の通り道が出来るように畳にひざまずいて、黙祷をささげ、その後ろうそくを消さないように仏壇にもどすのだ。これで、今日の儀式は終了。
先祖の霊はその後三日間じいちゃんちにとどまり、十九日のウークイにあの世に戻っていくことになる。
じいちゃんは、曽祖父が好きだった琉球古典音楽をテープで流していた。
この曲を聴くと、はるか昔になくなった両親のことを思い出して、とても懐かしくなるそうだ。幼いころ自分を愛していた両親を再び身近かに感じられる日・・・。
そんなじいちゃんも、最近ではすっかり体が弱ってしまって、歩き方もよぼよぼになったし、物忘れも激しくなった。
そして、すぐうとうとするようになった。孫たちが久しぶりに集まっても、いつの間にかうとうとしてしまう。
それを見ると、なんか悲しくなってきた。
じいちゃんはものすごく波乱万丈の生き方をしてきた。大金持ちから一気に貧乏になったり。結核になったり。戦争をくぐりぬけたり。三カ国語マスターしたり。
ある日脳に水がたまる病気になるまで、常に背をまっすぐに伸ばして歩いていた。
もし、来るべき日が来たら、「おつかれさまでした」と言ってあげよう。
線香のにおいと民謡の調べの中、ウンケイの夜はとても静かに流れていた。