ガジュマルクラブの危機

今日部会を休んでマチャコさんの研究室とサッカーした。マチャコさんがなんと試合に出て、しかもしっかりディフェンダーとして活躍してたので、すごい新鮮な気分になれてうれしかった。
でも個人的にはあまり走れなかったし、ボールに触れなかったってこともあって、ちょっと不完全燃焼・・。
そして七時半に轟公民館に行きました。今日の本題のガジュマルクラブに参加するためであります。
ガジュマルクラブってのは、沖縄出身の千葉大生が集まって、エイサーって言う伝統の踊りを練習するために結成された集団で、自称NGO。男女あわせて15人ぐらいいて、一人うまいやつ(ケンジ)を東京から呼んで、その人に教えてもらって、みんなで練習するって形を取っている。まだ道具はそろってないけど、今度の大祭でそれを踊るのが目標だ。で、俺はと言うと、二年前の友達の結婚式の時にいやというほどエイサーの才能が無いってことを思い知らされたんで、三線(沖縄の三味線ね)を弾く役として参加しているわけでやんす。
しかし、幸か不幸か、沖縄の男の多くがそうであるように、ここの男たちもかなりテーゲー(てきとう)で、情熱はあるのに体はついていかずいつも空回り。新歓も『なんとかなるさ?』で何にもやらなかったし、おれもバカなのでただその空回りにさらに拍車をかけるだけで何にも出来ないでいるわけなんすよ。
で、今日俺は四週間ぶりの参加だったわけ。新歓と、バイトと風邪で今まで参加できなかったからね?。この前行ったときは8人ぐらいでわいわいやってすごい楽しかった。今日はどうなんだろ?
わくわくしながら自動ドアをくぐり、事務の人に挨拶をして、階段を上り始めた。石垣さんの笑い声がする。今日も楽しそうだ。
すると、「あれ?誰か来た」っていう声がして、階段を上りきる前に向こうから顔を出して来た。石垣さんは俺の姿を確認した後、部屋に向かって叫んだ。
「将樹が来たぜ!四人目きたぜ!」
はあ?
練習部屋には三人しかいなかった。俺はサッカーで二時間遅刻したのにも関わらず、それまでたった三人しかいなかったのだ。何て事だ!しかも、その三人の様子も異様と言わざるをえなかった。
部屋には、この団体のリーダーの石垣さん、同い年でエイサーを教えているケンジ、この団体の首脳部の一人の知念の三人がいたが、石垣さんは俺を出迎えた後、「ヤバい・・ヤバいなこれは・・・」といいながらそこらへんを行ったり来たりしているし、知念は部屋の奥の隅っこで椅子に座り口を開けてぼーっとしていて、ケンジは一人エイサーではなく空手の型を黙々とやっている。何この異様な雰囲気!
すると石垣さんが口を開いた。
石垣「何でみんな来ないのかな」
知念「さあ・・みんな来てもくる日がかぶんないよね。二週間連続で来る人少なすぎ」
石垣「俺たちもまだ踊り覚えてないしな・・。やばいな?」
俺たちの間で、完璧に踊れるやつなんてケンジ以外一人もいない。
俺「そうですよね、まだ誰も踊れないし、俺だって三線あやふやだし」
すると、石垣さんが奇妙なことを言った。
石垣「それに、来月は子供たちに踊り教えなきゃならないし」
・・・・・はあ?
俺「何すかそれ?」
石垣「そうだ・・将樹はしらないんだ」
石垣さんは何やら公民館のチラシを持って来た。俺はそれを見て愕然とした。
『6月、お兄さんたちが教える沖縄民謡エイサーを踊ろう!』
ちょっとまて、まだ誰も踊れないんだぜ!?
石垣「でも多分大丈夫、まだ一ヶ月もあるから。将樹は三線よろしく」
俺「太鼓はどうするんですか?子供用の太鼓は」
石垣「・・・・・・」
俺「石垣さん・・?」
石垣「しまったーーーー!!!!」
考えてなかったんかい!
知念「・・うかつだった、そうだ、太鼓だ」
おまえもかよ!
石垣「これは作るしか無いな。」
知念「どうやって作るの?」
石垣「新聞紙とかで」
俺「絶対無理っすよ!たたいたら普通に破れますよ、太鼓なんだし!」
話し合いは一向に進展しなかった。
知念「ヤバいよこの状態・・絶対集団として落ち目に入ってるよ」
石垣「そうかな・・・」
知念「そうだよ。だって今だって四人しかいないし」
・・・・・・・・・・
石垣「・・・ごめん!!」
知念「どうしたのいきなり」
石垣「・・俺この前小学校で踊って?って言われてO.Kしちゃったよ」
俺「マジっすか!?誰も踊れないんですよ?」
石垣「やっぱヤバいかあな・・・」
知念「いやあ・・ヤバいっしょ・・」
・・・・・・・・・・
石垣「俺さ、最近食中毒なったってば。」
知念「食中毒?」
石垣「相当苦しかったんだよ。マジやばい」
知念「俺食中毒なった事無いからわからないけど、そこまで言うならヤバいんだろうね。」
俺「ヤバいっすね・・・」
・・・・・・・・・・・
知念「実はさ・・・」
石垣「・・・?」
知念「俺さ・・就活してて、もう就職したくなくなったんだよね」
石垣「おお!お前もか!」
知念「もういろいろ考えて専門に行きたくなって来た」
石垣「そうなんだよ、俺も院に行きたいんだよね。もう仕事に就きたくなくなったってば。」
知念「これってヤバいよね・・」
俺「ヤバいね・・・」
・・・・・・・・・・・
さっきから疑問にわいている事がある。なんなのこの会話!?さっきから「ヤバいこと」つながりで変な方向に流れてるやん!しかももうケンジ以外まともな精神状態なやつがいないじゃん!ここはケンジと俺でなんとかしなきゃ・・・・
その時、さっきから一人でエイサーをもくもくと踊っていたケンジが、一休みのため着替え置き場に近づき、ケータイのメールを見た。するとケンジが絶叫した!!
ケンジ「彼女にふられたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
いま、ガジュマルクラブは危機的です